本当に危険すぎる『かかと落とし』 元プロレスラーの使い手が警鐘「絶対にまねしないで!」
千葉県東金市で5日、50代の無職男性が、60代だった知人女性の頭に「かかと落とし」を何度もかけ、けがをさせたとして千葉県警東金署に傷害容疑で逮捕された。女性はその後、搬送先の病院で死亡。警察は傷害致死の容疑で捜査を進めているという。全日本女子プロレスの元WWWA世界王者で、かかと落としを得意技にしていた元プロレスラーの前川久美子さん(49)は凄惨(せいさん)な事件に憤り「本当に危険な技。絶対にまねしないで」と警鐘を鳴らした。
かかと落としとは格闘技の技のひとつで、瞬時に足を蹴り上げ、かかとで相手の頭、肩などを打つ。事件を報道で知った前川さんは、自身のかつての得意技が使われたことに衝撃を受ける。テコンドーや総合格闘技の参戦経験もあるだけに「危険だなと思った。硬いかかとを頭に落とすということは、トンカチで何度も頭を殴るのと同じこと。低い姿勢の相手にかけるとさらに衝撃が増し、当たったダメージで首が詰まる。壊れるのは当たり前。殺人行為」と、男の蛮行を非難した。
前川さんは1991年に全日本女子プロレスでデビュー。2006年に現役引退するまでに女子プロレスの第一線で活躍。最高峰の“赤いベルト”WWWA世界王者にも輝いた。K-1マットで活躍した故アンディ・フグさんが使っていたかかと落としに触発され「たまたま足が上がったので」自身の得意技として磨き始めたという。
プロレス技としてかかと落としを使うためには、前川さんの人知れずの努力があった。迫力で観客を魅了し、かつ相手を欠場に追い込むような無用なケガをさせない。当たりどころをコントロールできるよう、道場で練習を重ねた。
練習相手の頭の上にキックミットを置き、足を高く上げた後にふくらはぎを確実にミットに乗せるようにした。「試合でも相手のおでこに、ふくらはぎが当たるよう放っていた。当たりどころによっては本当に危険。プロレスは相手に、ケガをさせるものではない。力量がないと、ケガ人が出てしまう」と、熟慮を重ねた技だったと振り返る。
前川さんのダメージも大きかった。試合でかかと落としを出すと、試合後は歩けないほどだったという。「“筋肉つぶし”と呼ばれるほど、ふくらはぎへのダメージが大きかった」と明かす。かかと落としを女性にかけた男の足への衝撃も大きかったのでは、と疑問を投げかけ「低い体勢の相手に、何度もかけたのでは」と推測した。
技を伝授して欲しいと申し出る後輩レスラーもいたが、前川さんは危険だと判断すれば断ってきた。「危険の度合いがわからず、技をコントロールし切れる力量がなければ出すべきではない」と強調する。
ましてや、一般人の危険すぎる行為。女性への暴力も、言語道断だ。前川さんは「私的にはもちろん出さないし、かかと落としに限らず、自分の技の重さは考えないといけない。人を殴るってそういうことだから。男と女って、男が強い。こぶし、蹴りひとつでどうなるか、重さは考えないと」と、再発防止を切に祈った。
(よろず~ニュース・杉田 康人)