日本で撮影中の日露合作映画 制約受けるロシアの文化活動 現場スタッフの切なる思い
ウクライナ侵攻によって、ロシアが国際的な非難を受け、同国のアスリートや芸術家らの海外での活動が制約を受けている。「独裁者が起こした戦争なのに彼らが巻き添えで制約を受けるのは理不尽だ」「独裁者一人で戦争はできない。結果的にロシアという国を挙げて組織的に他国に侵攻し、国家の情報統制やプロパガンダによって多くのロシア国民がその行動を支持していることは事実としてあるので、現状ではやむを得ない」といった意見に別れる。こうした厳しい状況の中、女優でジャーナリストの深月ユリア氏は、日本国内で撮影を行なう日露合作映画の監督ら、現場の当事者から生の声を聞いた。
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ウクライナ戦争開戦から約3カ月がたつが、戦争は文化・芸術界をも分断している。西側諸国はロシアにたいして経済制裁のみならず、スポーツやエンターテインメントの場で「ロシア」外しを行っている。米メディアによると、国際的競技団体がロシアのスポーツ選手の起用を控えたり、エンターテインメント業界でロシア人歌手が公演から外されたり、ポーランド現地の情報によると一部の施設でロシア音楽が禁止されているそうだ。
そして、ロシアでもバレエやオペラ界で侵攻に反対する出演者は降板されるケースがあり、ロシアから海外に脱出する歌手、ダンサー、アーティストもいる。「国と国の戦争、特に今回はいわば独裁者プーチン一人の戦争なのに、優秀な民間人のアーティスト、ダンサー、スポーツ選手らが被害にあうのは不条理ではないだろうか」という意見もある。
そんな中で5月16日より、ロシアから7人の俳優・製作チームを招致した日露合作映画「歳三の刀」の撮影が日本国内で行われている。
映画のストーリーは、新選組の土方歳三が隕石でつくられた刀を持ち、ロシアに渡ったという時空を越えた歴史ファンタジー。監督はユーラシア国際映画祭代表の増山麗奈氏とロシアのアンドレイ・ムイシュキン氏が共同で務め、 製作チームは日露をはじめ、ドイツ、オーストラリア、ブラジルなど多国籍なメンバーで編成されている。映画は昨年クランクインし、日本とロシアでも撮影が行われたが、ロシアからの製作チームを招致しての撮影が新型コロナウイルスの影響で再三延期になっていた。
増山監督に企画の意図を取材したところ、「ウクライナ戦争で『鉄のカーテン』によって世界が分断されている中、何もせず時を待つより、行動を起こして世界を自分たちから変えていきたいと考えています。文化・芸術界で『ロシア外し』が行われているようですが、個人には罪はありませんし、ボルシチにもウォッカにもチャイコフスキーにも罪はありません。政治と文化や経済は別のものです。こんな時だからこそ、人の心をつなぐ文化交流に命をかけています」という。
しかし、やはり戦争中の撮影にさまざまな支障が生じているようだ。
「何度もロシア大使館と撮影可能な条件や航空券が取れるよう交渉しました。困難な社会情勢(戦争やコロナ)により、スポンサーや役者さんで降板した方もいらっしゃいました。『本当に撮影できるの?』と不安に思われ、予算集めも大変でした。燃料も高騰し、大幅な円安により航空券も上がりましたが、一つ一つの問題を乗り越えていきました」(増山監督)。
この社会情勢における「オンリーワンの映画」だからこそ、製作陣は映画への思いが熱い。
「世界的にも西側とロシアとの共同制作は、他にも例がありません。良い作品の感動を、世界に届けたいです。こんな時代だからこそ、みんなが爽やかな気持ちになるエンターテインメント作品を作りたいと考えております」(増山監督)
撮影監督のマキシム・ポルーニン氏も「元々、2020年から日本ロケが計画されていましたが、さまざまな(新型コロナウイルスなどの社会情勢の)障害があって延期になり、ようやく日本に来られてうれしいです。この映画を通じて、ロシアと日本の人と人との良きつながりを作っていきたいです」と語り、「映画のテーマの『隕石の刀』といえばロシアにチャリビンスク隕石か落下した歴史があります。ロシアにもSFファンがいるので、映画はロシアでもヒットすると思います」と付け加えた。
現在、日本はロシアから非友好国認定されているが、こうした草の根的な、国境を超えた人と人とのリアルな交流が真の友好に結びつき、増山監督が指摘する「鉄のカーテン」を崩す一歩になるのだろうか。
(ジャーナリスト・深月ユリア)