2040年には世界の肉の60%が「培養肉」に!? 食肉不足、動物愛護から研究進む 最大の課題は「単価」
動物の細胞を体外で組織培養することによって作られる「培養肉」が注目されている。将来的に不足すると懸念される食肉不足に加え、動物愛護の観点からも「代替肉」の研究が進められている。ジャーナリストの深月ユリア氏がその現状をまとめ、専門家に話を聞いた。
◇ ◇ ◇
昨今、世界各国で「持続可能なタンパク質」として培養肉への関心が高まっている。培養肉とは、細胞を組織培養すること作る人工肉。家畜を殺さずにタンパク質を摂取できる。
国連の『世界人口推計』の報告書によると世界の人口は2050年に97億人に達し、人類が食べる肉の量は1・8倍に増えてしまうと試算されるが、その場合、現在の畜産だけではタンパク質の供給が不足してしまう。
そして、畜産農場は森林を破壊し、 飼料の生産・輸送に伴うCO2排出に加え、家畜の消化器からのメタン(CH4)酸化炭素も排出し、環境を破壊する。もちろん、動物の犠牲も伴い、特に狭く不衛生なバタリーゲージで飼育する工場型畜産にはアニマルウェルフェアの問題も常につきまとう。
そこで、SDGsの理念と共に「持続可能なタンパク質」として注目されているのが培養肉と代替肉だ。
米国に拠点を置くグローバルコンサルタント会社「A.T.カーニー」の19年の報告書によると、「2040年には世界の肉の60%が、動物本来の肉ではなく、培養肉や植物から作られたベジミートなどの代替肉に代替えされる」という。
代替肉は既に世界各国の市場に流通しているが、培養肉に関して販売認可が出ているのはシンガポールのみである。
しかし、世界には170社ほどの培養肉企業が存在していて、英ガーディアン紙(22年5月25日付)によると、米大手グッド・ミート社が年間1万3000トンの生産能力を誇る世界最大の培養肉工場を米国で建設することを発表した。
ミート・ジャスト社(グッド・ミート社の親会社)の最高経営責任者ジョシュ・テトリック氏が同紙で答えたインタビューによると、「培養肉の普及は重要な課題です。森林を伐採することなく、動物を屠殺すことなく、畜産で抗生物質を使うことも、人畜共通感染症を引き起こすこなく肉を食べられるからです」(テトリック氏)
NPO法人アニマルライツセンターの代表理事、岡田千尋氏も、筆者の取材に対し、培養肉の未来に期待を寄せる。
「20年ほど前にはじめて培養肉の話を聞いたときは夢物語に聞こえていましたが、ついて数十年の開発期間を経て、手が届く物になってきました。そして植物性やマイコプロテインの代替肉もまた、より進化を遂げ、肉や卵の食感や味に非常に近いものになっています。そして代替肉や培養肉を市民も受け入れ始めています。この流れは動物にとって大きな希望になります。動物をと畜しなくてもよい食文化に移行していくことは、社会から差別や暴力をなくすことにもつながります。これらのイノベーションを生み出したのは、動物を苦しめたくない、環境を破壊したくないという課題意識です。日本は、畜産技術も畜産動物のアニマルウェルフェアも世界から大きく遅れてしまっているからこそ、代替肉や培養肉については、より強い課題意識を持って開発や市場の拡大に取り組んでほしいと願っています」(岡田氏)
良い事ばかりのようだが、培養肉・代替肉の栄養価はいかがなものか?
薬学博士で「食と安全研究会」会長の宮本貴世絵氏によると、「培養肉は今後の時代において更に研究が進み、単価が安くなれば、期待すべき食材だと思います。しかし、日本に流通するにはまだ先でしょう。現段階では、免疫力を高めるには様々な食材を栄養学バランス良く食べることが大事です。代替肉も良いのですが、それだけでなく抗生剤や化学肥料を濫用していない放牧の畜産のお肉と組み合わせて食べれば良いかと思います」(宮本氏)
今後の課題として、多くの企業が培養肉市場に参画して、大量生産していかに単価を安くできるか、ということだろう。古来より一部の和食料理に、魚や肉の代わりに大豆や小麦粉を使った食材を使ってきた日本において、代替肉は健康志向の人々の間でブームになっているが、培養肉も普及しやすい食材なのかもしれない。
(ジャーナリスト・深月ユリア)