阪神入団テストを受けていた伝説の映画撮影監督 急逝した仙元誠三氏の回想録出版、特集上映で再評価

 日本映画を代表するカメラマンの1人で、2020年に81歳で亡くなった仙元誠三氏の回想録「キャメラを抱いて走れ!撮影監督 仙元誠三」 (国書刊行会)が今夏刊行され、記念の特集上映が20日から9月9日まで都内の映画館「シネマヴェーラ渋谷」で開催される。ファン注目の「仙元祭」を前に、関係者らに話を聞いた。(作品後のカッコ内は公開、放送年)

 1969年に大島渚監督の「新宿泥棒日記」でデビュー。70年代には寺山修司監督の「書を捨てよ町へ出よう」(71年)からの振り幅も広く、アクション映画の金字塔となった松田優作さん主演「最も危険な遊戯」(78年)から始まる村川透監督の遊戯シリーズ3部作など、80年代には薬師丸ひろ子主演の「セーラー服と機関銃」(81年)、「探偵物語」(83年)、「W の悲劇」(84年)といった角川映画の名作などを数多く手がけた。テレビ界でもテレビ朝日系「西部警察」シリーズなどで精力的に活動。映画の遺作となった「さらば あぶない刑事」(16年)までカメラを回し続けた。

 本書では仙元氏の回想を軸とし、ロックバンド「キャロル」のライブや素顔を描いたドキュメンタリーにして、幻想的なシーンや当時の社会風俗、カルチャーの貴重な映像が詰まったATG映画「キャロル」(74年)についてのエッセーも掲載。担当編集者の樽本周馬氏は「当時『映画撮影』誌に載ったものを発掘しました。仙元さんによる長い文章はあまり残っていないので貴重な資料かと思います」と補足し、「助手へのインタビューも本書の読みどころ」とアピールした。

 盟友のライター・佐藤洋笑氏と共に仙元氏に密着取材してきた著書の1人で映画監督・ライターの山本俊輔氏にインタビューした。

 -まずは「そもそも論」として、撮影監督と監督の違いとは。

 「『監督』は俳優の芝居や演出を主に担当します。対して『撮影監督』は、照明や画角など、カメラに映るもの全般を取り仕切る役割です。中には、編集の際に必要になるカット割りも、監督が撮影監督(カメラマン)にお任せする場合もあります。撮影監督は監督に対する女房役のようなポジションで、監督が悩んだ時に助言をしたり、場合によっては現場そのものを取り仕切ってしまう人もいます」

 -印象的な仙元作品は。

 「やはり仙元さんの撮影でカッコいいのは(日本テレビ系ドラマ)『大都会PART2』第3話「白昼の狂騒」(77年)のクライマックスの東京タワーのシーンですね。まさに高所での命がけの撮影だと思います」

 -ビギナーへのお勧めは。

 「初めて仙元さんのカメラワークを体験してもらうなら、やはり『最も危険な遊戯』中盤の長回し銃撃戦と、『蘇える金狼』(79年)の要塞島での銃撃戦シーンがお勧めですね。恐らく唯一無二のスピード感とスタイリッシュさが感じられると思います」

 -本書に込めた思いは。

 「仙元さんに対する思いは全く個人的なもので、がん闘病されていた仙元さんの現場復帰に少しでも役立てればという思いで本を作っていました。ただ、道半ばで仙元さんが急逝されてしまったのは、とても残念でした。今ではその功績を、なるべく多くの映画ファンの方々に伝えたいと思っています」

 -特集上映(20作品)の中でお勧めは。

 「やっぱり『遊戯』シリーズ3部作の35ミリフィルム上映ですね。仙元さんはフィルム撮影に人一倍強いこだわりを持たれていたので、デジタル素材ではなくフィルムで上映するところに大きな意義があると思います」

 この特集上映について、樽本氏は「きうちかずひろ監督の『カルロス』(91年)と『ジョーカー』(96年)が同監督所蔵の貴重な16ミリフィルムで上映されます。初日には、きうち監督のトークショーも」と付け加えた。

 最後に、こぼれ話を1つ。京都の高校球児だった仙元氏は阪神タイガースの入団テストを受けていた。山本氏が聞いた本人の証言を抜粋する。

 「高校3年の野球が終わって、ちょうどプロ野球も10月頃、秋になったらオフになるじゃないですか。その時に阪神の選手が甲子園で練習する機会があったんですよ。藤村富美男とか、ああいう有名な選手と会えるんじゃないかと思って。甘い考えだよね。あとは自分がどれだけ通用するのかな、っていう興味だけ。(結果は不合格)まず身長が足りなかったのと、目が悪かった。ただ、遠投で身長の割には88-89メーターくらい投げて『お前、すごいな』と言われたうれしい思いは、そこだけ忘れない。走るのもそこそこ。結局、目と身長ではねられて。その頃は痩せていて筋力が足りなかったね。打撃の方でも印象を残せればよかったんだけど」

 プロ野球選手への憧れには“記念受験”で区切りを付け、映画界でアルチザン(職人)として才能が開花した。ゆるやかな移動撮影、全力疾走で被写体を追う長回し、鮮烈な「青」の画調…。「仙元キャメラ」の妙味は残された作品から体感できる。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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