犬も認知症になる 「仕方ない」と諦めないで!進行を遅らせるため「適度の運動」「刺激を与える 」
犬も認知症になるという。ジャーナリストの深月ユリア氏が海外の学術誌に掲載された研究論文を紹介し、国内の専門家に話を聞いた。
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犬を飼ったことがある飼い主なら、「年老いた愛犬が突然、問題行動を起こした」という経験があるろうか。学術誌「サイエンティフィック・リポーツ」8月25日付で、米ワシントン大学家庭医療学部の疫学者サラ・ヤーボロー氏が発表した論文によると、「老いた犬の認知能力は低下し、イヌの認知機能障害という深刻な病気につながることもある」。 さらに犬が認知症を発症する確率は、 「不妊手術の有無、健康状態、犬種、活動レベルが同じであれば、1年歳を取るごとに認知症になるリスクは52%高くなる」という。
認知症の犬は全年齢の統計の1・4%と比較的少ないが、健康的なペットフードの進化や獣医学の発展によって、犬の高齢化に伴い、認知症になる犬の比率は増えている。
同研究は、 ヤーボロー氏らの研究チームが、犬の飼い主1万5000人以上から年齢、犬種のタイプ、活動レベルなどさまざまなデータを収集して分析したものである。 犬の加齢と認知症との関連性に関して、これまでも複数の研究が行われたが、今回の研究は特にデータの規模がはるかに大きい。
同研究は人間の認知症やアルツハイマーの進行防止にも活用できることが期待されている。オルビー氏は、「犬は、飼い主と同じ環境で暮らして、同じ時間に散歩などして動いている」と、犬と人間との環境の類似性に注目している。米ニューヨーク市で動物行動診療を行っているアンドレア・Y・トゥー氏 も、「認知症を発症したイヌの脳の画像データから、多くの結論を導き出せるはずだ」と期待を寄せている。
犬の認知症について、筆者が折尾動物病院(福岡県北九州市)の獣医、大林清幸氏に取材したところ、「犬の認知症は犬の高齢化に伴って増えています。 足腰が弱くなり、運動量が減少すること、食事や遺伝的な要素も影響し、柴犬・秋田犬などの日本犬が遺伝的になりやすい、とも言われています」という。
また、24時間体制で動物の診療と看護に当たっている日本動物医療センターグループ本院(東京都渋谷区)によると、 犬の認知症の症状として、以下の要素があるという。
〈徘徊、旋回〉ぐるぐる歩き回る、目的もなくひたすら前に進もうとする。
〈夜鳴き〉自分の身体が思うように動かないときや寂しいときなど吠え続ける。
〈異常な食欲〉与えるだけ食べるようになる。
〈昼夜の逆転〉昼間は寝てばかり、夜になると起き続けて眠れない。
〈しつけ行動ができなくなる〉今までできていたことができなくなる。トイレの失敗など。
〈無気力、無関心〉呼びかけに反応しない、どこか一点を見つめているなど。
〈感情の起伏が激しい〉突然怒って噛み付いたり、攻撃的になる。
トゥー氏によると、「犬の認知症は老いによる仕方ない状態だと考えている飼い主が多い」という。
しかし、オルビー氏によると、犬の認知症の進行を遅らせるのは、特に初期段階であれば可能である。そのためには、「人間の認知症同様に、なるべく適度な運動をさせれば良い」。認知症を直接治療するのは現在の獣医学では難しいが、例えば、老いに伴う犬の関節炎の痛みを抗炎症薬など和らげて、活動的に動ける寿命が延びれば、認知症の進行が遅れる。
大林氏も「足腰が弱っている場合、無理な運動は逆にストレスになる。あくまで無理ない運動が良い」と、あくまで個々の犬の状況・体質にあわせた適度な運動を勧める。
日本動物医療センターグループ本院によると、 認知症の予防・対策には、宝探しなど「頭を使った遊び」をしたり、お散歩コースを変えたりして「刺激を与える」ことを勧めると共に、「老いだから仕方ないと決めつけて放置してしまうと、他の病気も見逃しかねない」リスクを警告している。
犬は言葉が話せないので、「仕方ない」と諦めるのではなく、気になったら一度は動物病院に診てもらおう。
(ジャーナリスト・深月ユリア)