ウクライナ侵攻に反対する富豪の相次ぐ不審死「プーチンや側近の汚職問題」も背景に 識者が指摘
ウクライナ侵攻に反対するロシアの富豪たちの不審死が相次ぎ、一部に「暗殺」や「粛正」という推測も出ている。ジャーナリストの深月ユリア氏がこれまでの報道などを元に、不審死した人物の状況をまとめ、ウクライナ出身の国際政治学者アンドリー・グレンコ氏にその背景を聞いた。
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ロシア国内でオリガルヒ(新興財閥)によるプーチン大統領への反発が強まる中、富豪たちの不審死が相次いでいる。ニューズウィークやニューヨークタイムズなどの海外報道を元に以下のようにまとめた。
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・ウクライナ侵攻翌日の今年2月25日、ロシアの大手企業、ガスプロムの財務担当副総責任者アレクサンダー・チュラコフ氏が自宅ガレージで死亡しているのが発見された。
・2月28日、 原油・ガス事業を営む富豪のミハイル・ワトフォード氏が、英南東部の自邸で「首つり自殺」しているのが発見された。
・4月18日、ロシア最大手金融機関のガスプロムバンクの元幹部、ウラジスラフ・アバエフ氏が、モスクワのアパートに妻と娘の遺体と共に発見された。ロシア国営メディア、タス通信によると、「アバエフ氏は家族を殺害後に自殺した」と報じられたが、真偽は定かでない。
・4月19日、大手天然ガス会社、ノバテク元副社長、セルゲイ・プロトセーニャ氏がスペインの別荘で家族と共に遺体で発見された。タス通信によると、同氏は「家族に暴力をふるって自殺した」と報じられたが、真偽は定かでない。
・5月8日、ウクライナ侵攻について「早期停戦すべき」という声明を発表していた大手石油会社ルクオイル社の元役員アレクサンドル・スボティン氏の遺体が自宅で発見された。ロシア現地の報道によると、同氏はブードゥー教の儀式中に急性心不全で亡くなったとのことだが、真偽は定かでない。
・9月1日、 再びルクオイル社だが、会長のラビル・マガロフ氏が病院の窓から「飛び降り自殺」した。
・9月12日、ロシア極東・北極圏開発公社航空部門幹部のイワン・ペチョーリン氏がウラジオストク沖でボートから転落し、遺体で発見された。
・さらに、エリツィン政権時代の民営化政策を率いたアナトリー・チュバイス氏もウクライナ侵攻に反対して、3月にロシア大統領特使を辞任。それから、トルコやイスラエルを転々としている最中に「病気になり入院中」だということが昨今、明らかになった。「毒をもられたのでは」という噂もささやかれている。
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米NBCニュースはかねてより「ロシアにおいて不自然な転落死が高確率で発生する」と指摘している。たとえ、「暗殺」だとしても独裁国家であるロシアでは報じられないだろうが、ここまで不審死が続くのは偶然ではなく、「プーチン(政権)が暗殺したのではないか」とも噂されている。
筆者が、ウクライナの国際政治学者で「ロシアのウクライナ侵略で問われる日本の覚悟」などの著者、アンドリー・グレンコ氏にインタビューしたところ、 「あくまで推測ですが、プーチンや側近の汚職・賄賂問題を知っているから、危険因子を取り除くために暗殺しているんだと思います。ウクライナ戦争に反対している人は特に『忠実ではない』と思われるでしょうね。ただし、不審死している人たちはプーチンの権威を脅かすほどの“大物”ではありません」という。
一部の心理学者から「妄想性パーソナリティー障害」だとも疑われているプーチンは、国内に「反対の声」が増えれば増えるほど、疑心暗鬼になり、権威を脅かすほどの“大物”以外も…ということなのか。いずれにしても、ロシア、特にプーチン政権以降は、政府機関による暗殺や暗殺未遂の可能性を指摘されてきた事件はあとを絶たない。
(ジャーナリスト・深月ユリア)