望む人が着れる下着を作りたい!創業49年京都のメーカーがLGBT当事者に聞き取りする深い理由
「ブラジャーは、女性の為の下着」この表現がしっくり来る人も多いだろう。でも実際に着けているのは女性だけではない。様々な事情で男性型の骨格の人がブラジャーを着用する場合がある。それはトランスジェンダー女性の場合があるし、趣味で身に着ける場合かもしれない。職業として女装をする人もいる事だろう。
そういった人々のブラジャーに対する悩みは千差万別。「性別に関わらず、着けたいと望む全ての人が、安心して着けられるブラジャーを作りたい。」そんな想いをコンセプトの実現に向けて立ち上がった会社が、京都で創業して49年のメーカー『エレーヌ』だ。
「年齢や体型の悩みに寄り添うブラジャーを作る一環で培った、バストサイズの小さな方に向けた商品作りのノウハウを活かせるのでは?」
最初はそんな単純な発想で始まった男性型の骨格にも合うブラジャー開発。調べてみるとサイズ展開が幅広いメーカーは多いが、様々な骨格に広く合わせる下着はあまりない事が分かった。
開発に向けて大事なことは何か。代表専務取締役の藤井隆男さんに話を聞いた。
「基本的に試着してもらって、意見を聞くのが大事だと考えています。ただ、当事者の意見を集めるのが大変でした。社員一同知り合い総出で着けても、骨格差の検証しかできません。私も着けてみましたが、良し悪しは分かりますが、生活レベルでの想像は難しいんです。普段から着用している方に試着してもらいたいと思いました」
全ての人をターゲットにするブラジャーを作る為には、社内で話し合うだけではどうにもならない。やはり、LGBTQ+の方からの意見を聞こう。そういう結論に至ったそうだ。
社内で検討をした結果、あるトランスジェンダー女性の講演会へ参加することとなったそう。さらに知見を深めるべく、大阪でLGBTQ+フレンドリーなコミュニティを提供している『Tsunagary Cafe(つながりカフェ)』へ問い合わせをしたところ、兵庫県尼崎市のNPO法人『MixRainbow(R)』の代表の“みのり”さん(トランスジェンダー女性)を紹介されたとのこと。
現在は『みんなの居場所』という当事者が集うコミュニティにて、現在までに2度トランスジェンダー女性向けの試着会を行っている。
「下着は全ての人にとって身体に近い必需品であると同時に、自身を表現できるアイテムでもあります。そのためトランスジェンダーの当事者の方からは生活の中でのお困りごとを主に聞いていきました。トイレの問題をはじめ、学校や職場での人間関係、家庭での生活など下着につながる悩みが沢山ありました。会うまでにも勉強や想定はしていたつもりですが、机上の空論だったかもしれません。足を運んだことは本当に良かったと感じています」(伊藤さん)
また、LGBTの方からの聞き取りをする中で気づきもあったという。
「LGBTについて真剣に考えたことが、さらなる多様性に目を向けるキッカケになりました。もしかしたら、まだ気づけていない色々な事情でブラジャーや下着について悩んでいる人たちがいるかもしれない。今回の商品開発に盛り込めるかは分かりませんが、会社の理念にも適うので、今後も色々な方に話を聞いてみたいです」(伊藤さん)
エレーヌで、開発を重ね洗礼された新商品『Alper/オパール』は、秋以降に発売を予定しているそう。すべてのブラジャーを望む人、既存のデザインでは難しい人などに向けて、多様な視点による企画から生産まで一貫して行う、エレーヌの今後に期待するばかりである。