テレビで性暴力被害を告発した俳優・睡蓮みどりさん 2次加害に直面も「本当に、言ってよかったなと」
性暴力やハラスメント被害者による「#Me Too」運動が米国から世界に拡散して5年。これまで沈黙してきた性被害者が告発に踏み切ることで、加害者側や性暴力に対する社会の認識も浮き彫りになってきた。米ハリウッドに端を発した動きは日本の映画業界にも波及。今年4月、映画監督の男性から受けた被害をテレビ番組などで告発した俳優の睡蓮(すいれん)みどりさん(35)が、よろず~ニュースの取材に対し、半年を経た現在の心境を語った。
睡蓮さんは1987年生まれ、神奈川県出身。早稲田大在学中にグラビアモデルとしてデビュー後、俳優として映画や舞台などで活動。セルフプロデュースの写真集を出版し、文筆家として映画批評の著書もある。
今年3月末、自身が連載している「図書新聞」の映画時評の中で「映画界における性暴力被害の当事者のひとりとして」と題した記事を執筆。4月にはTBS系「news23」の「映像業界における性加害、性暴力」をテーマにした特集にインタビュー出演し、問題が報じられていた映画監督から受けた性暴力被害を告発した。地上波キー局の報道番組で実名と顔を出して被害を打ち明けたことには大きな反響があり、共感や激励の声がある一方、誹謗(ひぼう)中傷などの2次加害も受けた。睡蓮さんは言葉を選びながら当時を振り返った。
「経験してしまったことを客観視することがつらくて、すごく怖かったんですけど、半年が過ぎた今、本当に、言ってよかったなと思っています。『間違っていることは間違っている』と言えるような社会の空気感が少しずつですけど、変わってきていると思っています。本当はこんなことで目立ちたくないですし、問題になるのは被害者ではなく、加害者が問題になるべきだと思うのですけど、まだ、そこまでは行き着いてない。被害者の方が多くを語らなきゃいけないというのは深刻な問題です。ただ、考えるきっかけの一つに、少しはなっているのかなと思います。いろんな業界で、これまで声を上げにくかった人が声を振り絞っている。そういう広がりに連帯の輪みたいなものを感じています」
SNSなどで匿名の第三者による2次加害も根深い問題だ。睡蓮さんは自身の体験として「2次加害的なことをしてくる人は男性が圧倒的に多いと感じていますが、性別というよりも『男性優位社会』という価値観を持つ人たちで、声を上げた人を押しつぶそうとする」と指摘した。テレビ番組での告発後、俳優や映画監督ら有志で作る「映像業界における性加害・性暴力をなくす会」が4月27日に声明を発表。自身も発起人の1人として名を連ねた。
それから半年が過ぎた。睡蓮さんは今月、福島市で開催される韓国ドキュメンタリー映画「AFTER ME TOO」上映会(11-16日)のトークイベントで、大学教授や弁護士ら日替わりゲストの1人として13日に登壇する。
コロナ禍以前の世界に戻ることができないように、「Me Too」以前の世界に後戻りはできない。キーワードは「アフター」だ。「私も…」から一歩進んだ世界。「その後の私」として、どう生きるか。誹謗中傷に心が折れ、姿を隠すことで、加害者やその同調者が安穏とできる社会になることは悔しいし、許せない。毅然(きぜん)として、こうした発言の場を大事にし、自分の仕事を続けることが「闘い」になる。
睡蓮さんは今月6日まで、劇団羊風舎旗揚げ公演「都市伝説・康芳夫~モハメド・アリに魅せられた国際暗黒プロデューサー」(東京・新宿シアターブラッツ)に出演中。アントニオ猪木VSモハメド・アリ戦などを仕掛けた伝説の興行師・康芳夫氏の半生を描いた舞台で、その康氏の役を演じている。
初日の3日、昼公演には康氏も劇中の舞台に上がってトークに加わった。睡蓮さんは「ご本人から『感激した』というお話を聞いて私も感激しました。光栄です」と感無量。同日の夜公演には、「心のよりどころ」的な存在である親友の新宿タイガーも来場。虎の面をかぶった元新聞配達員で、今も新宿の名物的存在であるタイガーは「最高だったよ!いい夢ありがとね」と絶賛した。
睡蓮さんは「昨年3月に(日本映画研究家のオランダ人男性と)結婚したんですけど、タイガーがキューピッドだったんです。私も出ているドキュメンタリー映画『新宿タイガー』がドイツで開催された映画祭で上映されたことがきっかけで。タイガーは『人』という概念を超えた存在で、タイガーはタイガー。康さんもタイガーと同様に、康さんは康さん」と語る。その両者に共通しているのは「性を超えた存在」であるということ。良き仲間、国境を超えたパートナーに支えられながら、「その後」の睡蓮さんは新たな一歩を踏み出している。
(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)