落語とeスポーツを融合させた落語家の知られざる半生

 「落語」と「eモータースポーツ」が同時に楽しめる前代未聞、奇想天外な寄席が3月2日、大阪天満の繁昌亭で開かれる。出演するのは上方落語の異端児、桂三幸さん(43)。eスポーツドライバーの世界王者に輝いた宮園拓真さん(22)に挑戦する。なんでそんなことになったのか。

 いかにも革新的な落語を続ける桂三幸さんらしいチャレンジだ。上方落語の殿堂、繁昌亭でなんと、なんと落語とeスポーツを融合させた異色の落語会を開くという。

 「何のことかよう分からんかもしれませんが、eスポーツはアジア大会や国体の正式種目になっているほど。落語が好きな人にもeスポーツに興味がある人にも楽しんでもらえると思っています」

 三幸さんと言えば、サングラスをかけて歌や音楽、光を取り入れたフュージョンのような高座で注目を集めてきた。それは「ハイブリッド落語」とも呼ばれ、ときに批判されたこともあったが、決して古典をおろそかにしているわけではない。

 「どちらにも良さがあると思う。大切なのはお客さんに楽しんでもらうこと。そのためには日々鍛えて、力をつけなければいけません」

 創作意欲は師匠の六代目桂文枝さん譲りかもしれない。愛媛県出身。松山東高時代からお笑いに目覚め、愛媛大工学部に進むと落語研究会に入った。「もともとは漫才をやりたくて。休学して吉本のNSCに通おうと考えたこともありました」

 この道に入るきっかけは大学3年の時。地元のテレビに出演するようになっており、人づてに当時の桂三枝さんの住所を知らされたことから手紙を送った。すると…。

 「三枝師匠から一度NGKに来てみたらというので松山からフェリーに乗って行きました。楽屋におじゃましたら”修業は厳しいけど、がんばれ”って」

 しかし、入門までには紆余曲折があった。大学卒業後、すんなり噺家へ進んだのかと思ったらそうではなく、気持ちは揺れていたそうで大学院を受験。合格もしたが、最終的には進路変更した。その年に第1回M-1グランプリが始まったのが大きかった。

 「勝ち上がって2回戦へ進んだんです。そしたら、そこに現れたのが優勝した中川家。1番手で登場してバカ受けウケして、次から出る人は笑いがどんどん減っていきました」

 そのとき、コンビより1人の方が向いていると思い、一から落語の勉強をさせてもらおうと入門を決意。三枝さんにとっては12番目の弟子となった。

 「サンシ、ジュウニです。そのとき、入った弟子は3人いまして、師匠からはいまでも”一番最初に辞めると思った”と言われますが、残ったのは僕だけです」

 一方で、三幸さんが幼い頃からもうひとつ憧れ続けていたのがF1ドライバーだった。テレビで最初に観たのが91年、鈴鹿グランプリでの今は亡きアイルトン・セナの勇姿。高校の頃の進路希望には「レーサー」と書き、大人になってからは鈴鹿サーキットを試乗したこともある。それらが今回の「落語会」につながった。どういうことかというと、こうだ。

 叶うはずのないレーサーの夢は、やがてオンラインゲームの世界へ。「グランツーリスモ」で腕を磨き、いまではネット上で世界中のレーサーと相まみえ、時には現役F1ドライバーとも対戦している。やがて、その存在は世界王者の宮園拓真さんにも知られ、SNSで友だち申請が来るほど。それが今回のユニークな企画に発展していった。

 宮園さんは兵庫県生まれ。今春、大学を卒業するが、緻密な戦略、卓越したハンドルテクニックとコース取りで知られ、2020年には世界大会「FIAグランツーリスモ チャンピオンシップ ワールドファイナル」で3冠を達成している。

 注目の落語会は三部構成になっており、目玉は世界王者の宮園さんと三幸さんの対決。白熱のコックピットが舞台で再現され、本格的な実況も入る。さらに、トリは三幸さんの「eスポーツ落語」となっている。

 舞台でお客さんとキャッチボールを繰り広げる形式の「ラスト1球」でも知られ、創作落語にも力を入れる。その一方で関大、甲南女子大で非常勤講師を勤める三幸さんにとって、今回の落語会はどのような意味を持つのか。

 「ある意味、僕の夢がかないました。落語もeスポーツも敷居は高くないんで、絶対に楽しめると思う。レースに例えると、ピットに入ったらちょうど雨が降ってきたような感じかな。邪道と思う人がいるかも知れませんが、楽しいことを追求していきたい。みなさん、僕の本気を見てください」

 それにしても、落語とeモータースポーツ。ハマれば、大きな話題となりそうだが、師匠の文枝さんもイスから転げ落ちそうなほど意外な組み合わせとあって、うまく融合できるのだろうか。周囲の心配をよそに芸人最速の三幸さんは「大丈夫。落語もドライビングも座ってやる仕事です!」としたり顔だった。

◇「落語とモータースポーツ~夜明け~」

日時=3月2日18時30分開場、19時開演

場所=天満天神繁昌亭(大阪市北区)

料金は前売り2000円、当日2500円                       問い合わせ=電話06(6352)4874

(よろず~ニュース特約・チコ山本)

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