母はレジェンド声優 井上ほの花、劇場アニメ初主演「お母さんと比べられる気持ちはすごく分かる」
声優・井上ほの花が3月31日に公開された映画「らくだい魔女 フウカと闇の魔女」(浜名孝行監督)で、劇場アニメ初主演を飾った。累計発行部数160万部超の人気児童書「らくだい魔女」シリーズ(作・成田サトコ、絵・千野えなが、ポプラ社刊)を原作とする話題作。主人公・フウカの境遇と、レジェンド声優・井上喜久子の娘である自身と重ね合わせたことを明かし、一人の声優としての決意を語った。
ほんわかとした笑顔、柔和な語り口が印象に残る。井上ほの花にとって、17歳のデビューから8年、大きなステップとなる劇場アニメ初主演。「ステップというような考えはなかったです。フウカちゃんは自分に近いものを感じる女の子。そのままを出せたら、という思いで演じました」と、自然体を意識した今作を振り返った。
幼い頃に原作を愛読。それだけに「天真爛漫で勉強が苦手、ちょっとドジっ子で周りを巻き込んで事件を起こしてしまうけれど、芯は優しくて気遣いもできる女の子。私が想像していたフウカちゃんがそのまま動いていました」と、感激もひとしおだった。作品では見習い魔女のフウカと幼馴染の王子や親友のお姫様たちとのワクワクする冒険、ほんのりとした初恋が描かれる。
フウカは銀の城・レイア女王の娘で魔法学校の見習い魔女。尊敬し大好きな母に対して、失敗が多く劣等感を抱く娘の姿には、思い当たる節がある。
「お母さんと比べられる気持ちはすごく分かります。お母さんをすごく好きで、娘だからしっかりやらなきゃ、というのも、私と似ているかなあと、ぐっと来ました。お芝居では気持ちが入り過ぎちゃって、そこまでしなくていいよ、と指示を受けたこともありました」
保育園に通っていた頃、初めて声優に憧れた。「母が(『しましまとらのしまじろう』で)しまじろうの母を演じていて、小さい子みんなが見るアニメなので、すごいな、やりたいなと思いました」。中学生になって夢が再燃したが、やんわり止められたという。「レイア女王と違って、母は全然厳しくないんですよ」と笑った。ところが、17歳の時、周囲の期待に応えるように、気がつけば声優としてデビュー。同じ事務所の母との関係に変化が起きた。
「少し申し訳ないような気がして、母も同じ気持ちだったと思います。それまで本当に怒られたことがなかったので、キツくはないけれど母から、ああしなさい、こうしなさい、と言われるのがすごく嫌でした。普段は優しいのに、仕事ではこんなに変わるんだって。自分の中ではやっているつもりなので『やってるじゃん』って、初めての反抗期だったかもしれません」
母の指摘に不満を抱えながら、演技面で確かな自信を持てないまま二十歳を過ぎ、しばらくたった頃、心境に変化が起こった。「演じているキャラクターを、私が信じなかったら、そのキャラクターがかわいそう。この子を好きになってほしい、知ってほしい、と考えるようになったんです」。技術を超えた、気持ちを演技に込めた。次第に母からの指摘が減るに伴って、人気作品のメインキャラクターを任されるようになった。「今は自信を持って、私がこの子を演じているんだって考えられます。母から言われることはなくなったけれど、演技に迷ったときには自分から相談します」と、仲の良い関係を語った。
確かな成長を果たしたからこそ、改めて母には尊敬の気持ちを抱く。「デビューから35年。子育てもしながら、第一線でたくさんの作品に出続ける母はカッコイイし憧れます。周囲にとても感謝しながら働く母を見ているので、自分もそういう声優になりたいです」と誓った。今後については「自分で言うの恥ずかしいんですけど、先輩からオマエの天真爛漫さはピカイチだと言ってもらえたことがずっと胸の内にあります。天真爛漫さをキャラクターに乗せて、伝わったらいいなと思います」と話す。上品で親しみやすい、お姉さんのような声質が特徴の井上喜久子とは異なる個性を発揮していくつもりだ。
母から「ほっちゃんにピッタリの役のオーディションがあるよ」と教わったことをきっかけに、大役をつかんだ今作。遊園地のように喜怒哀楽を演じ、主題歌「ときめきの風に乗って」の歌唱も担当した。井上ほの花は「生活の中では、つらいこともあるけれど、この作品を見て魔法にかかったようにポジティブでハッピーな気持ちになってもらえたらうれしい。きっとフウカちゃんたちが魔法をかけてくれると思います」と呼びかけた。柔和な物腰の中に、確かな芯が見えた気がした。
(よろず~ニュース・山本 鋼平)