【漫画】36歳でオタク、37歳でイラスト挑戦、43歳で商業誌デビュー、45歳で初単行本の漫画家「数年後は珍しくなくなる」

 36歳でオタクに目覚め、37歳で絵を描き始め、43歳でデビューした漫画家が、45歳で初の単行本を上梓した。モトカズさんはライトノベル「いたずらな君にマスク越しでも恋を撃ち抜かれた」(作・星奏なつめ、イラスト・裕)のコミカライズを、漫画アプリ・ピッコマで連載中。そのコミック本が3月15日に発売された。個性的な経歴の持ち主に、これまでの歩みと現在の心境を聞いた。

 モトカズさんは妻と長男、愛猫と大阪で暮らす兼業作家。45歳の門出を「ここ数年、コロナ渦を通じてネットを介した創作活動がより活発になりました。おうちエンタメとして漫画アプリも多く生まれ“漫画家になる”ハードルは下がったように感じます」と状況を分析。「45歳での初連載、初単行本は珍しく感じられますが、数年後には『よくある話』になっていると予測します。その意味では、遅咲きながら時代を先取っているとも言えますし、後に続くであろう多くの“40代デビュー作家”の良い前例となるべく、今後も希望ある道を切り開いていきたいです」と述べた。

 感染症が発生し、学校での隔離、マスク生活を余儀なくされたキャラクターが、楽しみにしていた学校行事を開催するために奮闘し、様々な困難に立ち向かう中、恋と青春にも向き合うコメディ。モトカズさんが「今この時代だからこそ読んでもらいたい物語」とする理由は、高校1年生になった長男の存在がある。

 昨年1月、コミカライズの提案を受けた。「私はそれまで4コマ漫画を主としていたため、ストーリー漫画を描いたことがありませんでした。男性キャラクターをしっかりと描いたこともありませんでした」と不安がよぎった。しかし、「息子はコロナ渦の影響で学校行事の中止や縮小など、様々な制約を受け続けていました。小説にも同じような逆境に苦しみながらも、青春する学生の姿がありました。小説の中で奮闘する学生の姿と息子の学生生活が重なり、『この物語を、私だからこそ描ける視点で漫画にしたい!』と強く感じました」と翻意。45歳の誕生日から間もない昨年9月、連載をスタートした。

 今作を通して様々な学びがあった。「連載ですので、今までよりも『早さ』を求めるようになりました。クオリティーを日々向上させつつ、早く仕上げる。そうでなければ、原稿に追われるだけの日々になってしまい成長が見込めない、そんな気づきがありました。担当者との打ち合わせやアシスタントとの共同作業、漫画家にとってコミュニケーションが重要であることなど、多くを学びました」。初連載で締切を守るだけでなく、「回を増すごとに変化、進化している作画もお楽しみください」と、技術の向上も両立させた。

 思いもしなかった漫画家への道は、小さなきっかけから始まった。6歳だった長男のため、頻繁にレンタルビデオショップを利用していた2013年、アニメコーナーで「化物語」に出会い、大人向けアニメの魅力を知った。プログラミング言語Javaを勉強するつもりで開設したツイッターアカウントに、アニメの話題を投稿した。程なく「日常」「キルミーベイベー」に夢中になり、ファン同士の交流が深化。36歳にしてオタクになったことを自覚した。

 SNSでの交流からファンアートの存在を知った。37歳で液晶タブレットを購入し、フルデジタル環境でイラストを描き始めた。本格的な絵画経験はなかったものの、中学時代からパソコンに触れ、大学時代には企業ウェブページを制作し、パソコンの家庭教師を行うなど意欲的にIT技術を学んだ経験が生きた。15年末のコミックマーケット89では、「キルミーベイベーの同人合同誌」に参加し、同人デビューを果たした。20年春に編集者に見いだされ、同年の「まんがタイムきららMAX」(芳文社)11月号、12月号に「おしかけリブート」を発表。43歳でプロデビューを飾った。

 21年9月に現在の担当がついた。「当時の私は、『漫画の連載を持ちたい』という目標に対して技術と実践経験が不足していることを痛感していました。それまではイラストの練習が中心でしたが、翌10月より二次創作の1ページ漫画を頻繁にアップするようになりました。とても大好きなアニメの二次創作だったので、楽しく漫画を描く日々が続きました」。実践を重ね、初の連載につなげた。

 単行本を発売したが、課題も感じている。「以前は『好きな作品に近づきたい』と、それのみを追いかけるスタンスでした。長らくファンアートを中心に活動してきたこともあり“誰かのような絵”を多く描いてきましたが、そうではない“自分自身の絵”と向き合い、生み出すことに苦しみ、その苦悩は今も続いていますが、商業作品としてより広く受け入れられる作画・作風を追求していきたいです」と今後を見据えた。

 来年でオタク歴10年を迎えるモトカズさん。「私のオタク人生の転機には必ずといっていいほど息子が関係しています。そして、ずっと支えてくれている妻に感謝しています。アシスタントのはせあおさんにも感謝しています。振り返って思うのは『独りじゃ何もできなかった』ということです。支え応援してくれる人がいるからこそ前に進める。だからこそ感謝を忘れてはいけないと改めて思います」と感慨深げに語った。

 45歳。大きな夢、そして現実にも向き合う。「まだ始まったばかりの漫画家人生ですが、若い作家とは違い、45歳の私に残された活動年月はそう長くありません。次の10年も漫画家、そしていちオタクとして一つでも多く確実に夢や目標をかなえていきたいです。そのためにも健康に気をつけ、家族仲良く、そして一人でも多くの方を創作で笑顔にできるような努力を重ねていきたいと思います」と前を向く。「次の大きな夢は、50歳で連載漫画のアニメ化です!」と力強く誓った。

(よろず~ニュース・山本 鋼平)

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