侍ジャパンとシンクロ!? 変革を起こす行動と信念の映画『AIR/エア』 バスケが舞台のアメリカンドリーム
WBCで世界が沸く中、まるで大谷翔平選手と栗山英樹監督が巻き起こしたミラクルとシンクロする実話が映画になった。
それは「エア ジョーダン」というブランドが登場した1980年代。以来、バスケットボールをしたことがない人でもそのシューズを履くのがお洒落になった。まさに選手マイケル・ジョーダンをブランド化したこの戦略。しかもNBAの当時のルールに影響を及ぼし、選手がシューズの版権の一部を手にする業界における異例の契約を結んだこのブランド。一体、どうやって作られたのか。そこにはひとりの男の“アメリカンドリームの作り方”という戦略があった。これを知る映画が誕生、その名も『AIR/エア』だ。
1984年のアメリカ。巷にはMVが流れ、路上でブレイクダンスをする若者がおり、ルービックキューブが流行し、何かと賑やかな時代だ。真剣な眼差しでバスケットボールを観戦するナイキの社員ソニーは、CEOのフィルからバスケットボール部門の立て直しを命じられていた。当時、ナイキのバスケットボール・シューズは人気がなく、業界ではコンバースがシェアを占めていた。
一体、どの選手にナイキ・シューズを履いて貰えば話題になるのか?そこでソニーが目をつけたのはまだ新人でNBAの試合にも出たことがなく、自身はアディダスのファンだと公言していたマイケル・ジョーダンだった。この勝ち目のない試合でソニーは誰もが驚くある施策を打ち出す。
本作の製作に名を連ねるのは『アルゴ』(2012)で第85回アカデミー賞作品賞を受賞した俳優でもあるベン・アフレックと、親友で『インビクタス/負けざる者たち』(2010)、『オデッセイ』(2016)などの名優マット・デイモン。この二人は今までも『グッドウィル・ハンティング/旅立ち』(1997)で共演はもちろん、共同で脚本を書き、第70回アカデミー賞脚本賞を受賞。『最後の決闘裁判』(2021)で共同脚本、共演、製作を担当。そして『AIR/エア』ではベン・アフレックがナイキのCEOフィル・ナイト役と監督も務め、マット・デイモンが主人公であるナイキの重役、ソニー・ヴァッカロを演じている。
なぜ二人は、今になって「エア ジョーダン」の誕生秘話を描こうと思ったのだろうか?それには間違いなく彼らの青春期が80年代だったことと、二人がクリエイター主導の製作会社「アーティスト・エクイティ」を立ち上げたことも理由となっているだろう。
劇中、ワム!の「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」のMVが映り、REOスピードワゴン「涙のフィーリング」やシンディ・ローパー「タイム・アフター・タイム」、そしてブルース・スプリングスティーンの「ボーン・イン・ザ・USA」が象徴的な意味を持って流れる。更にナイキのスローガンが何度かクローズアップされる。
「常に攻めの姿勢で」という言葉など、今までにないことを始めるにはリスクを伴うが、大きな変化をもたらすと信じるベン・アフレックとマット・デイモンの攻めの姿勢が窺えるのだ。そう、この映画は改革を起こしたチームの物語。そしてアメリカンドリームとは、人が行動を起こし、信念を貫くこと、更には大谷翔平の才能を信じて未来を予測した栗山英樹監督のように自分の才能を信じてくれたバディの存在で叶うのだと伝えていた。
(映画コメンテイター・伊藤さとり)