声優・三ツ矢雄二、同性愛者役に「誰がキャスティングした」42年前公開の異色アニメ「夏への扉」イベントに登場
声優の三ツ矢雄二が17日、東京・千代田区の一橋大学一橋講堂で開催された「アニメーションプロデューサー丸山正雄のお蔵出し 竹宮惠子原作『夏への扉』」に出演した。1981年に公開されたアニメ映画「夏への扉」をプロデュースした丸山正雄氏、共演した声優の水島裕、古谷徹、古川登志夫、潘恵子とともに、同作上演後、トークイベントに参加した。
1965年に虫プロ入りした丸山氏が、退職後に設立したマッド・ハウス(現マッドハウス)時代に制作された同作では、同時タブー視されていた少年愛や性の目覚めといったテーマが、真崎守演出と華麗な映像美で描かれた。
三ツ矢は美少年への片思いが実らず、自ら命を絶った少年役を熱演。2017年に同性愛者であることをカミングアウトしており、この日は「あの頃と内面は何も変わっていません。誰がキャスティングしたのでしょう」と話し、会場のファンを沸かせた。古谷から「当時カミングアウトしていなかったっけ?」と振られると「ほとんどしていたも同然でした」と回答。近い関係者や、古谷、古川、野島昭生ら声優仲間で活動していたバンド、スラップスティックでは周知の事実だったという。
性交シーンなども叙情的かつ大胆に描かれた同作。三ツ矢は「42年前にLGBTを扱っている素晴らしいアニメ。その時は(キャラクターの気持ちが)分からないという顔で演じていましたが、実は何から何まで全部分かっていました。演じていて気持ち良かった」と話し、再び会場を沸かせた。
今作をきっかけに丸山氏との縁が深まった三ツ矢。「丸山さんは僕に変わった役しかくれません」と、「魔物ハンター妖子」での老婆役、「リロ&スティッチ」での宇宙人役を挙げたが、「嫌な気持ちはいたしません」と楽しそうに振り返った。劇場アニメ「ピアノの森」では録音監督を務め上戸彩、神木隆之介らを演技指導した。
レジェンド声優によるトークは1時間半近く続き、さまざまな秘話が披露された。最後に三ツ矢は「夏への扉」当時と現在の声優業界を比較し「かつては様々な個性がありました。なぜかというと、以前はさまざまなバックボーンを背負って、声優業界に入るからです。現在は学校や養成所が山のようにできて、どうしても平均値を求めてしまう。僕らの時は0点か100点でいいような機運があり、思い切って演技ができた。現在は声優、そして若い人が増え、競争が激しく、ある意味過渡期だと思う」と現状に危機感を募らせる一方、「AIが出てきても声優の仕事はなくならない。人の心は人の心でしか演じられない」と、職業への誇りを口にした。
丸山氏はマッドハウスで「パプリカ」「千年女優」「YAWARA!」など数々の名作を手がけ、退職後に設立したMAPPAでは「この世界の片隅に」などをプロデュース。2016年に設立したスタジオM2では、年内に浦沢直樹原作「PLUTO」のネットフリックス配信が控える。丸山氏は19日に82歳の誕生日を迎えるが、この日は潘恵子の娘で丸山が手がけた「HUNTER×HUNTER」で主演した声優・潘めぐみがサプライズで登場し、花束を贈られた。丸山氏は「年齢は体力と気力をもとに、自分で決めていいと思う。僕はまだ72歳だと思っています」と、さらなる前進を約束。三ツ矢らレジェンド声優からも祝福を受け、他にも「夏への扉」の脚本を手がけた作家・辻真先氏、「機動戦士ガンダム」で知られるアニメーター・漫画家の安彦良和氏も会場に姿を見せていた。
(よろず~ニュース・山本 鋼平)