「役者になるため」2浪→東大法学部→劇団東京乾電池 現在もバイト生活 吉橋航也44歳の決めた道

 劇団東京乾電池の俳優・吉橋航也(44)がこのほど、神戸市内でよろず~ニュースのインタビューに応じた。タレントの磯山さやか(39)とのW主演映画「愛のこむらがえり」が6月23日より順次公開中。初主演の映画に対する思い、東京大学法学部を卒業して役者の道へ進んだ理由、これからの目標などを語った。

 同棲8年目の崖っぷちカップルが映画製作の夢をかなえるため奮闘するコメディー。オファーを受け、「ありがたかったですけど、本当にできるのか、不安はありました」と振り返る。演じるのは夢と現実の間でもがく映画監督。「監督と役者の違いはありますが、くすぶり度合いとか、焦る気持ちとか、自分が置かれている境遇と似ている」と共感する部分が多かった。

 役者を志すきっかけは、演劇に目覚めた筑波大学付属駒場高等学校時代だ。同校の大先輩で伝説的な劇団夢の遊眠社を立ち上げた野田秀樹氏にあこがれ、同じ道を行くために、学歴もマネしたいと野田氏と同じ東大法学部を目指すことを決意。2浪の末、念願がかなった。学生劇団にも入団。在学中にケラリーノ・サンドロヴィッチの舞台「青十字」のオーディションに合格した。「(役者の道で)いけるかもと勘違いしまして」と笑うが、これで決心がついた。

 6年かかって大学を卒業するも就職もせずに「しばらくこのままやりたい」と家族に思いを打ち明けたが、当然、反対された。子どもの頃から両親にミュージカルなどによく連れて行ってもらっていたそうで、両親には「子どもの時に、いっぱい舞台に連れて行かなければよかった」と嘆かれ、非常に申し訳なく感じた。それでも役者の道を捨てることはできなかった。

 2年間フリーの役者で過ごしてから劇団東京乾電池に入団。「何が面白いのか分からない時期があって…。そのときにたまたま乾電池の養成所募集の折り込みチラシがあって。1年間通って、面白さが分からなかったら、役者をやめようと思った」と明かす。「今までの価値観を全部つぶされるというか。即興をやった直後に講師に『何が面白いのか』と言われて。厳しさの奥に、とてつもない面白さが続いているように見えた」。迷いが吹っ切れた。

 今回、映画初主演が決まると、東京乾電池座長の柄本明から「何もしなくていいから。とにかく見てろ」と自分が出演している映画の撮影現場に呼ばれた。現場を終えて飲みに誘われると「セリフは最低限、完全に頭に入れておかないと見られることに防御するから。お前、分かっているよな」と身を持ってアドバイスを受けた。

 今回の映画では吉橋とW主演の磯山と柄本の3人が絡む緊迫した場面がある。「撮影期間中、唯一、ピリピリした時間というか。柄本さんがそういう空気を出して、そういう風にしてくださったので。役でやっているのは分かっていても、あの目つきを見ると、ヘビににらまれた蛙というか。怖かったですね」と役者魂を見せつけられ、深く印象に残っている。

 自分の役者としての理想を描く。「ふとしたときに監督が『そういえば、吉橋ってヤツがいたなあ』と呼んでもられるようになれば。どんな役でもいいので、パッと監督が思いつく役者の一人になれれば」。本業だけでは生活は厳しく、現在も介護のアルバイトを続けている。「お芝居だけでやっていけるようになりたいですね」。夢を持ち続けながら自分が選んだ道を進んでいく。

 ◆吉橋航也(よしはし・こうや)1979年7月7日生まれ、神奈川県出身。東京大学法学部卒業後、2008年より劇団東京乾電池に所属。舞台、テレビ、映画などに数多く出演。趣味は囲碁(五段)、水泳。落語も得意とし、柄本明より「東乾家吉喬」の高座名を命名される。

(よろず~ニュース・中江 寿)

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