中村主水にもらった「小判」の思い出 必殺マニアが明かす舞台裏の藤田まことさん、Z世代の女優も魅了
国民的テレビ時代劇『必殺』シリーズ(朝日放送・松竹制作)を2か月間にわたって都内の映画館スクリーンで上映するという企画『必殺大上映 仕掛けて仕損じNIGHTS』(ラピュタ阿佐ヶ谷など)が8月19日まで開催され、新たな客層が連日訪れている。『必殺』といえば、代表的な主演俳優は中村主水を演じた藤田まことさん(2010年死去、享年76)。同シリーズのファンクラブ「とらの会」会長で作家・映画監督の山田誠二氏が、よろず~ニュースの取材に対し、藤田さんとの秘話を明かした。
山田氏は1963年生まれの59歳。小学生だった72年9月に放送が始まったシリーズ第1弾『必殺仕掛人』の第1話に衝撃を受け、中学生の頃から京都の撮影所に出入りしていたという早熟な少年時代を経て、『必殺』と共に人生を歩んできた。著書『必殺シリーズ完全百科』(95年、データハウス刊)は必殺ファンのバイブルとして読まれてきた。
同氏は上映企画初日のトークイベントで、『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』と『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』(立東舎)を連続刊行したライター・高鳥都氏と対談。80年生まれの「後追い世代」となる高鳥氏に対し、リアルタイム世代として数々の「よもやま話」を披露したが、その中で特筆すべき藤田さんとのエピソードについて、イベント後、改めて話を聞いた。
山田氏は300回記念の視聴者プレゼント用台本や、藤田さんも出演予定だった幻のファンタジー時代劇『必殺仕事人新春ワイド TANTAN狸御殿に恋が散る』の台本と共に、「僕にとってかけがえのないお宝ですが、他の人から見ると何でもないもの」という小判を持参していた。
「池内淳子さんも出演された『必殺スペシャル・秋 仕事人VS仕事人 徳川内閣大ゆれビックリ!主水にマドンナ』(89年10月放送)で、仕事人が小判を手にする場面を撮影した後の昼食時、僕がセットをながめていると、藤田さんが出てこられて『山田君、ご苦労さんやな。これ、仕事料や』と、くださった一品です」
その後、仕事上でも忘れられない出来事があった。2000年に直木賞作家・京極夏彦氏の小説を原作とした初の長編映画『京極夏彦・怪』シリーズ(松竹・WOWOW)をプロデュースして脚本も手がけ、自ら出演した山田氏は、藤田さんに“ダメ元”でオファーを出した。
「京極さんも必殺ファンなので、『ゆかりのキャストでやりたい』となり、そうなると、やはり藤田御大には出てほしいじゃないですか。気軽にはお願いできない中、薄氷を踏む思いで、『アフレコで一言、声だけいただけますか』と聞いたんですよ。すると、藤田さんは『ええで』と言ってくれた。お殿様の役で、側室が逃げ出したので、家臣に『連れ戻せ』などと命令するだけでよかったんですが、藤田さんは衣装部でパパッとお殿様の格好をして、実際に演じてくれた。感謝の言葉を伝えると、藤田さんは『いやいや、そんなん別に。一瞬だけのことやから。それに、どうせ出るんやったら、声より、自分が出た方がええやろ、思(おも)て。こんなもんで、よろしかったですやろか?』と。ふだんから心遣いの素晴らしい方で、私のような若造にもとてもよくしていただいた」
20-30代で体感した藤田さんの粋な姿を回顧した山田氏。7月30日には京都市のホテルビナリオ嵯峨嵐山で「時代劇とロケ地の現在と未来」と題したイベントを開催する。自身が監督したショートムービー『くノ一必殺ロケ地旅・拡大版 流れ橋大爆破・くノ一VS最強悪心軍団』を同時上映。殺しの場面で登場する「針」や「指の関節を鳴らす音からのレントゲン写真」など、随所に『必殺』シリーズへのオマージュが散りばめられている。
主演女優の奥田萌々(もも)は当サイトの取材に「私は2003年生まれで、今年20歳になったばかりですが、監督の元で『必殺』シリーズを拝見させていただき、勉強中でございます。そもそも、『殺しを題材にする』というテレビドラマは今ではあまり観ないですが、だからこそ、今の時代には観られない痛快なストーリーだと思いました」と、いわゆる“Z世代”ならではの「必殺観」を代弁。今回の作品上映に向けて「必殺好きの方はぜひご覧になっていただきたいです」とアピールした。
山田氏は自身の監督作について「くノ一と見せかけて、実は『必殺』です」とニヤリ。20代半ばだった30年以上前に渡された小判を手に「小道具ではありますが、僕にとっては中村主水からもらった“仕事料”なので、この“稼業”から抜けられないなと。30日の京都では、東京でのトークショー以上に濃密な撮影所秘話を語ります」と予告した。11月で還暦を迎えるが、今もなお、『必殺』と向き合う“仕事人”であり続ける。
(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)