トンデモ映画じゃない!伝説の「北京原人」は代表作だ 最新作「首」の撮影監督が明言「大まじめにやった」
全国公開中の映画「首」(北野武監督)で撮影監督を務めた浜田毅氏が都内でトークイベントを行った。撮影監督デビュー40周年となる今年、北野監督と初タッグとなる最新作「首」について、日本を代表する映画カメラマンは「北京原人 Who are you?」(1997年公開)に次ぐ自身の「代表作」と明言した。
浜田氏は1951年生まれ。83年以来、森崎東、崔洋一、深作欣二、井筒和幸、森田芳光といった有名監督から若手監督まで幅広く仕事をし、数々の名作や話題作を手掛けた。滝田洋二郎監督と組んだ「おくりびと」(2008年公開)は米アカデミー賞で外国語映画賞を獲得し、自身も第32回日本アカデミー賞の最優秀撮影賞を受賞。14年に紫綬褒章を受章し、日本映画撮影監督協会の理事長を務めるなど、業界の第一人者である浜田氏がイベント終盤に「僕の代表作は『北京原人』。『首』はその『北京原人』に次いで70歳にして出会った北野映画の傑作」と発言し、会場を沸かせた。
「北京原人」は20億円の予算をかけ、「新幹線大爆破」「未完の対局」「空海」「敦煌」といった大作を手がけてきた佐藤純彌監督がメガホンを取り、「夢千代日記」など数々の名作を生んだ早坂暁氏が脚本を担当。ところが、ツッコみどころの多いストーリーや、壮大過ぎて収拾が付かなくなったテーマなどから“世紀の珍作”と称され、“戦後最大の脚本家゛橋本忍氏が監督も務めた怪作「幻の湖」などと並んで好事家から“カルト作品”扱いされている。
そのような“色メガネ”を外し、改めて手元にあるDVDで作品を見返した。
特殊メークを施された北京原人(本田博太郎)が「関東実業団対抗陸上競技大会」に出場し、やり投げや短距離走、その後の追走劇などで超人的な身体能力を発揮する場面など、手練れのスタッフによる「さすが」とうならせるシーンに出くわす。当時、話題になった「ウパーッ!」という原人の叫びは、心を許した「仲間」を指す表現。「原人の保有権争い」(日本VS中国)、「スクープ」(メディア)、「成果と功名心」(科学者)で「心」を失った現代人に追われながら、自然や家族と共生する北京原人のシンプルな生き方が文明批判も含めて描かれていた。
だが、世間の見方は“トンデモ映画”だった。イベント司会を務めた映画監督で作家の山本俊輔氏は「その前年に(映画評論家の)水野晴郎さんが『シベリア超特急』を監督していて、『“シベ超”の一番のライバルが現れた』と映画雑誌に書かれた」と振り返る。また、ライターの佐藤洋笑氏は「子どもの原人役だった子役は今、売れっ子の声優(※小野賢章)になっていますね」と豆知識を披露。ちなみに、大ヒットしたハリウッド映画「タイタニック」と同日公開だった。
現場でカメラを回し続けた浜田氏は「大まじめにやったんですよ。ああいうのは大まじめじゃないとやれない」とキッパリ。その上で「最初は『北京原人がオリンピックに出る』という話で、結局、陸上大会ということになったんだけど、それをどうやって撮るかと。だから、CGとか合成とか、あの作品で勉強させてもらった。マンモスが馬を蹴散らすシーン、あれは北海道の稚内まで行って、ブルーバック(合成用の映像素材を撮影する際に背景として用いる青い布など)を持って撮ったりした。御殿場にブルーバックを張ったりね。先端を走ったんですよ。でも、後ろ向いたら誰も付いてこない(笑)」と振り返った。
生命科学研究所の若き科学者(緒形直人、片岡礼子)が森の中で北京原人の親子とコミュニケーションを図るために「同じ生き物になろう」と判断し、そろって衣服を脱ぐ場面(肌色の下着パンツのみ着用)も語り草になっている。浜田氏は「片岡礼子に『脱いでくれて本当にありがとう』と俺たちは現場で言ってました」と“女優魂”に感謝した。
さらに、浜田氏は「脚本に『日本の地底で恐竜の激しいセックス』と書いてあって…。『それ、どうやって撮るんですか』と早坂さんに聞いたら、『何でもできるだろう』、『いや、できないと思います』って(笑)。マンモスの実物大は作れないから。その大きさに合わせてセットをミニチュアで作った。ロケでは種子島から屋久島、中国にも行った。引田天功や佐藤蛾次郎(博士役)も出て来る」と懐かしみ、改めて「『北京原人』は僕の代表作ですよ」と強調した。
そんな浜田氏に、山本氏は「いやいや、代表作はもっとありますよ。深作監督の『いつかギラギラする日』や(アカデミー作の)『おくりびと』とか」と指摘したが、自身の熱量と反比例して低い評価を受けた「北京原人」への思いはひとしおだったのだろう。浜田氏は「(主演の)緒形直人が『北京原人の話はやめてください』と言ったから、俺は言ったの。『バカヤロー!北京原人が俺の代表作だ…くらい言えないのか。あれはお前の代表作だよ』って」と熱弁。“黒歴史”として忘却するのではなく、映画人としての矜恃を示した。
山本氏が「今度は『北京原人2』をぜひ。北京原人を一番、愛している浜田さんの監督で」と振ると、浜田氏は「いやいや、愛しているものには触れないじゃないですか」と絶妙のオチで返した。
(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)