「漢字を覚えろ」→「ポケモン全部描け」と言うようなもの 文字が画像に見えてしまう学習障害当事者の感覚

LD(学習障害)当事者の感覚がSNS上で大きな注目を集めている。きっかけになったのは書字障害のお子さんを持つあさこさん(@asaco0228)が投稿したエピソード。

~あさこさんの投稿~

LDの『読めるのに書けない』が学校に理解されない時。

私は「先生、ピカチュウ描けますか?」と聞いた。

「絵を見たら『これがピカチュウ』とすぐ分かりますよね?横に見本があれば見ながらなら描けるかもしれませんね。でも見本が無かったら?頭にぼんやりピカチュウがいても白紙を前にしたら(あれ?耳ってどんな?ほっぺたピンク?手は?)てなりません?彼らの漢字はそれと一緒です。それでも何回も書いてたらピカチュウほどメジャーならそれっぽく書けるようになるかもしれませんね。でもポケモンて全部で800くらいいるんですって。その一匹一匹をヒゲの1本まで正確に覚えられますか?必死でやれば覚えられるかもしれませんね。でもかなり必死ですよね。なのに、このキャラヒゲが一本足りないとか言われるんです。いやですよね。途中から『なんとなく形が合ってればもう良くない?』て思うか、諦めるかしません?

でも諦めることも許されないんです。彼らはその状況下にいるんです。

文字が画像のように見える、というのは、私たちは文字と絵を分けて認識することができ、瞬時に漢字を頭の中でパーツに分解することができるけれど、彼らの脳はそうじゃないってことです。私たちがピカチュウの絵に『ピカチュウ』という情報がくっついてるだけで描き方なんて考えないのと一緒です。」

と言ったら、それまで「書けないとか言ってないで頑張らせないと」と言っていた管理職が黙った。

で「そんなふうに、文字に対する脳の認識が根本的に違うんです。だから読めるけど書けないんです」と念押ししたら「…そういうことなのか…」と呟き、会議室の空気が少し変わった。

◇ ◇

あさこさんのお子さんは元々、文字を文字だと捉えておらず、「小学校の授業でやるまで読み書きを覚えないといけないなんて思ってなかった」「周りの子がなんで字が書けるのかわからなかった」と困惑していたという。

学習障害は、知的発達とは関係なく見られる。原因や症状にはさまざまなケースがあり一概には言えないが、このエピソードからは脳の認識が一般と異なるがゆえに漢字を覚えられない人がいるということがよくわかる。

今回の投稿に対し、SNSユーザー達からは

「幼稚園教諭だけどLDが よく理解できていなかったから この説明は身近で想像できて分かりやすかったです。

勉強になりました。

保護者への説明も こんな風にしていけたらと思います。」

「私も小学生の頃漢字書けませんでした。罰として練習帳に何回も書かされても中々覚えることが出来ません。算数の簡単な足し算も時間がかかるし英語のスペルも覚えることが難しいです。漢字が書けないので人前でメモを取るのは今でも苦手です。あの時あさこさんのように説明出来たら…」

「理解出来ました。

そういう方々がいらっしゃることも存じ上げませんでした。

勉強になりました。」

など数々の驚きの声、共感の声が寄せられている。あさこさんに話を聞いた。

--あさこさんがご投稿のような理解を得た経緯をお聞かせください。

あさこ:私が、「文字が画像のように見えているのでは?」と考えるきっかけになったのは、息子が小学校低学年の頃「なんでこれが間違いなの?出来上がった形は一緒じゃん!それに点とか線が足りなくても、何の字かわかるんだからいいじゃん!」と頻繁に泣いて訴えてきたことでした。

息子が医療機関の検査で書字障害だと確定したのは小学校4年生の時ですが、読み書きへのつまずきは就学後すぐに始まりました。特に書き取りは、文字の中で1本の線のつながりが全くわかっていない様子で、横に見本を置いていても不思議な書き方ばかり。漢字だけでなく、ひらがなさえも曖昧なままでした。

例えば「一」を書くだけでも右から左へ書いたり、「す」は「十」を書いて〇の部分だけ後付けしたり、漢字の下半分の簡単なつくりの部分から書くこともありました。「食」も中は一度「白」を書いてその下に「レ」を足す、「里」は「田」と「土」」が分かれる、「田」の2画目の「¬」は角が離れて2本線、「さんずい」の3画目を右上から左下に力強く斜めの直線など…。

さらに、大きく印刷された文字の見本の紙を横から見たり逆さまにしたりもして、やはり文字をイメージで捉えていて、絵を描くように書いているだけなのでは?と考えるようになりました。

そこからキャラクターの絵に置き換えて考え、文字をぼんやりとしか思い出せない感覚に共感するところまではすぐにたどり着いていたのですが、その数年後に、子供たちがハマったポケモンGOで、あまりに種類の多いポケモンの名前を私が全く覚えられず。覚えることを放棄しようとした際「もしかして息子の漢字ってもしかしてこんな感じ…?」と思いつき、息子に確認してみたところイメージがピタッとはまってやっと息子の感覚を理解しました。

--現状、教育現場でのLDについての理解度についてご感想をお聞かせください。

あさこ:学習障害に対する理解度や対応は、同じ学校の先生の間でもとても開きがあると感じています。もちろん、知識があり積極的に支援を提案してくださる先生もいますが、その一方で学習障害自体をご存じなかったり、知ってはいるものの学習障害の生徒への支援には関心がない先生もいらっしゃるのが現実です。

また、知識としてはご存じの方であっても「学習障害」という名前から、読み書きや計算が全く出来ない状態と誤解されているケースもあります。身近に当事者がいなければ、当事者の状態をなかなか具体的にイメージはできていないようだと感じています。

--学校や社会に今後改善を求めたいこと、期待したいことは?

あさこ:私が今後の社会に求めたいことは、学習障害が広く知られることと、学習障害のお子さんを早期に発見できるシステム作りです。学校では、子供に関わる先生全員がその存在と対応を知っていてほしいですし、就学前の保護者へ周知する機会も必要だと考えています。そしてこれは本当に個人的な理想ですが、小学校一年生の中頃に一斉スクリーニング検査を実施して欲しいです。そのタイミングで学習障害の傾向があるかどうかだけでも把握できれば、その後の学校と家庭の対応も全く変わってくるのではと考えます。

私は、息子が読み書きを出来ず、泣いて嫌がる理由が分からなくて一人で悩んだ時間が本当に長くて孤独でした。もし、就学前にその存在を知っていて、学校に支援の仕方を知っている方がいれば親子でどれだけ早く救われたか分かりません。

また、学習障害のお子さんが見逃され続ける最も大きな悪影響は、本人が自信を無くし、学習への意欲が無くなってしまうことで起こる二次障害だと聞いています。息子の場合はどんどん荒れていきましたが、実際には不登校が多いようで、私の狭いコミュニティの中でも学校へ行けなくなってしまった子が何人かいて胸が痛みます。

若干6歳や7歳で、周囲は当たり前のように出来ていることが自分には出来ない、という戸惑いと絶望は相当なものだと思います。もしも周囲の大人から見て読み書きに違和感のある子がいたら「学習障害かもしれない」という前提のもと、読み書きに拘らない学びに切り替え、自信を失わず、新しい知識を得る楽しさとそれを理解できていると実感する喜びに導いてあげてほしいです。

ただ、保護者とともに理解者であってほしい先生方は、昨今忙殺の日々を送られているので、ただ負担を増やす結果になるのは本意ではありません。そのため、学校の中の分業化が進み、先生たちが「教える」「生徒と向き合う」という本来の職務に集中できる環境に変わっていくことも社会全体に期待したいですね。

--投稿の反響へのご感想をお聞かせください。

あさこ:「LDを学校に理解してもらえない。説明の仕方がわからない」というポストを見かけ、これから学校に話にいく親御さんの参考になればと思って軽い気持ちで投稿したので、反響の大きさにとても驚いています。

色々な立場の方から直接コメントをいただきまして、概ね「分かりやすい」「納得」という反応だったのでお役にたったなら良かったなと。

ただ、一方でご自身のTLにだけ投稿する形で「甘えるな」「こんなモンペの対応をさせられて先生可哀想」「絵と文字を一緒という時点で意味不明」等否定的なコメントも見かけたので、まだまだ社会から理解されるにはほど遠いなとも感じました。

--今回ご紹介されたエピソード、その後はどうなったのでしょうか?

あさこ:今回の投稿では「無理解」というイメージになってしまった管理職の先生ですが、1か月後にもう一度お会いした時には「息子さんの存在は、われわれ教員の意識を変える良いきっかけになります」と言ってくださりました。

その後、担任の提案で合理的配慮の基本方針は「息子さんが授業内で使うデジタルツールは、その内容を学級全体に提示して、他の子も同じ方法を選択できるようにします」となり、GIGAスクール端末での板書の撮影や、デジタルノートテイクを全体に解禁、息子がそれを使っていても特別な存在にならないよう理想的な形で配慮を実現してくださいました。カメラスキャンアプリの導入を相談した際には、すぐに区へ申請してくださっただけではなく、「学校から申し込めば無料だったので、あれば便利かと思ってついでに」とGood Noteまで入れてくださって感動しました。

正直なところ、先生によっては配慮することに納得していないのだろうと思う方もいるのですが、相談する度に快く、迅速に対応してくださる管理職や学年の先生方のおかげで、息子本人が「学校で困っていることは特にない」と言い切り、元気に通える環境にいさせていただいております。息子に関わってくださっている先生方には感謝しかありません。

◇ ◇

まだまだ社会におけるLDの認知度は低い。当事者の助けになる情報も極めて少ないのが現状だがLD児童の保護者と大学院生によって運営されるホームページ「カラフルバード~CBLD~」では数々の事例や有益な情報を紹介している。LDに悩む方や教育に携わる方にはぜひチェックしていただきたいと思う。

(よろず~ニュース特約・中将タカノリ)

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