「世界一の朝食」を神戸北野テラスでも 名物シェフが伝えたいこととは
「世界一の朝食」をご存じだろうか。神戸北野ホテル総支配人の山口浩シェフ(63)が長年提供してきた人気メニュー。この12月には新たにレストラン&バー「神戸北野テラス」(神戸市中央区)をオープンさせ、ここでも味わえるようになった。メディアにも引っ張りだこの名物シェフが手がける新たな食の発信基地。その背景にある熱い思いとは。
■神戸北野テラスを食のランドマークに
三角形のユニークな建物が山口さんの手によって「神戸北野テラス」としてリニューアルオープンされた。場所は神戸の山の手。近くには映画やドラマの撮影などにもよく使われるビーナスブリッジがある人気スポットだ。
「ほらっ、見てください。山があって街があって、すぐ近くに海が見える。ここに立てば日の出から日の入りまで一望でき、遠くは和歌山や淡路島まで眺めることができる。自然に触れながら都会の躍動も感じられる。こんな所はそうそうないでしょう」
そんな特等席から今回新たに「世界一の朝食」をいただけるようになるなんて、何という幸せ。唯一無二の体験となること間違いなしだろう。と、その前に世界一の朝食とは一体、なんなのか。いきさつは山口さんが28歳で渡仏した修業時代まで遡る。
■「世界一の朝食」そのいわれは…
そもそも、この朝食はフレンチの重鎮ベルナール・ロワゾー氏が考案し、世界的な権威を持つ「スモールラグジュアリーホテル協会」から「世界一」のお墨付きをもらったもの。名店 「ラ・コート・ドール(現ルレ・ベルナール・ロワゾー)」で出されていたものを弟子である山口さんが受け継ぎ、ロワゾー氏から公式に再現を許されたものだ。
「ブルゴーニュの村にあるレストランなんですが、クロワッサンを食べたとき、その小麦のおいしさに感動し、地元で取れたイチゴで作ったコンフィチュールの果実味にも強い衝撃を受けたんですよ。フレンチのテクニックや技法もさることながら帰国したらフランスの食文化、エスプリや芸術性を伝えたいと強く感じました」
神戸北野ホテルではオーベルジュを中心に20年以上に渡って提供されており、メニューはコンフィチュールと呼ばれる果物のジャムやクロワッサン、パン、フィナンシェ、ヨーグルト、生ハムなど10品目以上を一度に堪能できる。
今回、実際に味わって感動したのは5種類からなる「飲むサラダ」と「幻のイチゴ」と呼ばれる二郎イチゴで作ったコンフィチュール。そのみずみずしさと味わいは一般的なジャムとは全くの別物で、イチゴ好きにはたまらない代物だった。それと栗の花から作られたハチミツも絶品。ヨーグルトに混ぜるとさらに味が引き立った。
■持続可能な食文化のために
神戸北野テラスは1階がレストラン、2階はバーからなり、四季折々の自然を感じ、夜には神戸の夜景も楽しめる。もっとも、山口さんが今回、開業するあたって、その背景にあったのは食文化や食に対する危機感からだった。
「コスパやタイパを重視すると、だれかが犠牲になったり、何かが粗末にされたりしてしまう。そうであってはならない。この国の豊かな食材を守り、いかに次の世代に伝えていくか。このまま、あと10年もすれば立ちゆかなくなってしまう」
もちろん、京都や大阪と比べ、観光面などで伸び悩む神戸を元気づけたいとの思いもある。だから山口さんの活動は多岐にわたり、メディアにも積極的に登場。最近では大学で「食料問題」を訴え、警鐘を鳴らす一方で県内の漁業協同組合と連携し、未利用魚を積極的に活用。海の水を神戸に本社のある優良企業に買い上げてもらい、それを使って天然塩を製塩するなど様々なアイデアを出している。
「食材を次世代につなぐ活動や産官学共同のグランドツアーなど料理の枠を超えた活動にも力を入れています」
■取り組み評価→黄綬褒章も受賞
これら一連の活動が評価され、フランス料理アカデミーの会員に認定。農事功労賞「シュバリエ勲章」を叙勲している。日本でも「料理マスターズ」「現代の名工」さらに「黄綬褒章」も受章している。
「”世界一の朝食”という言葉をひとつのアイコンに、ここを起点にして、みなさんの盛り上がりにつながったり、食の未来を考えるきっかけになることを願っています」
ちなみに2階のバーは、ときにディスコにも早変わり。1000万ドルと言われる夜景を見ながら世界の銘酒を味わうことができるそうで早速、1階でディナーをいただき、2階でサプライズのプロポーズに成功したカップルもいるそうだ。もしかすると恋愛成就が都市伝説のビーナスブリッジのおかげかもしれない。
(よろず~ニュース特約・チコ山本)