作詞家・森雪之丞 アイドル、アニメ、ロック、ミュージカルを経て古希の誓い「詩を読む場所をつくりたい」

 作詞家として48年のキャリアを持つ森雪之丞は、ジャンルを横断した活動を続けてきた。布袋寅泰、hide、氷室京介、氷川きよしなど多くのアーティストからの支持に加え、シブがき隊、斉藤由貴らのアイドルソング、さらに「キン肉マン」「ドラゴンボール」「キテレツ大百科」などのアニメソングでも確かな足跡を残した。近年は舞台・ミュージカルの世界に進出し、手がけた歌詞は2700曲を超える。そんな森が70歳の節目を迎え、自選詩集「感情の配線」を発表。その記念イベントが1月25日に都内で行われた。

 書店内の会場に俳優の猪塚健太、声優の牧野由依、礒部花凜をゲストに迎え、単独での朗読パート、役柄を分担した戯曲詩が披露された。同詩集にはこれまで発売した5冊の詩集から厳選したものに加え、戯曲詩、文字列が形を作る図形詩が書籍に初収録されている。

 まず森がひとりで登場。観客の反応を確かめながら、これまでのキャリア、詩作への思い、今後の目標を冷静かつ情熱的に話した。

 1月14日に古希を迎えた。「びっくりしましたけど70歳になってしまった。昨年、音楽の仲間でちょっと早く天国に行った連中が多くて、自分が70になって何をしようか考えた時、みんなの分まで頑張ろうという気持ちがありました」と語り始めた。

 今作の経緯を「どうやって頑張ろうかと思ったら、今まで作詞はたくさん書いてきたけれど、小さな詩人としては30年ぐらいで5冊の詩集を上梓して、小さな場所で朗読会をやっても、そこで完結してしまい、なかなか自分の詩が皆さんには届かなかった。もう一回、自分にカツを入れようと、今まで書いた詩を一冊にまとめようと思いました」と説明した。誕生日を迎え、ロンドン在住の布袋寅泰にLINEで「オレもそろそろ終活かな」とぼやこうとしたが、変換ミスで「就活」と送ったエピソードを披露。「まだやるの?ってところから、こうして皆さんに集まってもらった。うれしい限りです」と感謝を口にした。

 ロックミュージシャンを志し、長髪でハイヒール姿だった1976年、ザ・ドリフターズの「ドリフのバイのバイのバイ」で作詞家としてデビューした。80年代までアイドルソングの世界で活躍し、アニメソングにも領域を広げた。

 「なぜか作詞家デビューがドリフターズで、70年代から80年代はアイドルポップの時代でした。何ができるか、いろいろ勉強させてもらいました。ところが、特に80年代はベストテンのように、しのぎを削る時代で、僕の中で息苦しさもあったんですね。そんなとき、アニソンが僕にとっては本当にとても自由なジャンルだったんです。今ほど世界的には日本アニメが認知されていない時代だったし、初めて主題歌を担当した『キン肉マン』にしても未知の人気だったけれども、アニメは楽しいなと思い『ドラゴンボール』とかいろいろなものを書かせていただいた」

 ポップ、アニソンで存在感を示し、90年代には布袋寅泰らとロックにも活躍の場を広げた。

 「やっぱり元々の目標はロックでした。デヴィッド・ボウイを代表とするグラム・ロックと、キング・クリムゾンやピンク・フロイドを代表とするプログレッシブ・ロックにとても影響を受けました。それは音楽だけじゃなくて歌詞でもです。ピート・シンフィールドという人は、クリムゾンの初期には作詞家なのにメンバーとしてクレジットされていて、そういう人になりたいと思っていた。そんな中、サディスティック・ミカ・バンドを再編(89年)する時に、高橋幸宏さんに誘われ共に過ごし、その後に布袋寅泰と出会ったことがとても大きかった。歌詞なんだけれども、アートに近いというか、現代詩のようなことができた。僕にとっては本当に大きな扉がそこで開きました。それがあったから48年間、ここまでやってこれました」と回想した。

 そして「その中で布袋や氷室京介やhideやロックの連中といろいろやっていたんですけど、彼らのコンサートのように、自分にも言葉を託す場所を持ちたくてリーディングのイベントをやりました。でも、なかなか(世間には)届かなかったところがありました」と詩作の難しさも口にした。

 ここで「どうしても皆さんに聞きたかったことがあるんです」と切り出し「森雪之丞の“言葉”を初めて意識したタイミングを挙手していただきたい」と呼びかけた。アイドルポップ、アニソン、ロック、ミュージカルと順番に挙手を求め、その結果ごとに感慨深そうに「アニソンのファンは愛があってずっと応援してくれる」「『GUITARHTHZM2』というアルバムはプログレッシブな音楽で書けたので自信になりました」「21世紀に入って自分が最終的にやるべきことは、まだまだ輸入物に頼りがちな日本のミュージカルで、再演されるような日本のオリジナルを作れるかをテーマにしてきました」などと語った。最後は「70代は頑張って詩を読む場所をつくり、詩作もしていきたい」と今後の目標を口にした。

 ゲストとして猪塚、牧野、礒部を会場に招き、40分ほど朗読を繰り広げた。森は「本屋さんで詩を読むことは僕の憧れ。1950年代、60年代にビートニク詩人といってロックに影響を与えたアレン・ギンズバーグ、ジャック・ケルアックらはニューヨークの本屋さんで詩を読み始めた。そこにボブ・ディランやパティ・スミスがいて、ロックの歌詞がアートに近づいたと聞きました。原点は本の中で言葉をつづり、それがロックとコラボして今につながる。情報を伝えるための言葉とは別に、言葉で表現を楽しむことができたら、それは神様からのとても幸せな宝物かもしれない」と締めくくった。音楽と作詞、そして詩作。詩集のタイトルのように“感情の配線”が浮かび上がるイベントだった。

 ◆朗読された詩 <ソロ・パート>逃亡のような追跡 (森雪之丞)、二月の文学 (牧野由依)、例えば闇を太陽の形に切り取ること (猪塚健太)、腐らない果実 (礒部花凜)、 SOKOに居た(森雪之丞) <戯曲詩>太陽のある国 (女=牧野・影=森)、哲学するピーターパン (ピーター=猪塚・触れたモノ達=他の3人)、Art oh heArt(天使1=牧野・天使2=礒部)、カーニバルの魔術師 (魔術師=猪塚・旅人=森)、夢と旅の図式 (全員)

(よろず~ニュース・山本 鋼平)

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