石破茂氏のキャンディーズ論「コールの輪には入らず」「想い出の中に」 一番好きな歌手は「岩崎宏美さん」

 昨年大みそかのNHK「紅白歌合戦」で、キャンディーズ以来、46年ぶりに出場した伊藤蘭(69)の歌唱場面で、声援を送る150人以上の中高年ファンの姿が映し出されて話題になった。1973年のデビューから半世紀、熱い思いを抱き続ける、主に60代を中心とする男性たちの存在がクローズアップされたが、政界きってのキャンディーズ・ファンとして知られる自民党の石破茂元幹事長は何を思うか。キャンディーズを起点に、リアルタイム世代として「昭和歌謡」への思いを語った。(文中一部敬称略)

 「年下の男の子」「ハートのエースが出てこない」「春一番」と、キャンディーズの代表曲3曲をメドレーで歌った「ランちゃん」に対し、令和にタイムスリップした昭和の少年たちが熱狂的なコールを送った。既に「高齢者」とされる年代の入口に立った人たちも少なくないが、「紅白」の画面に映し出されたその姿は、当時を知らない世代に強烈なインパクトを残した。

 石破氏はよろず~ニュースの取材に対して、「世代を超えて楽しめることはいいことですよね」と受け止めつつ、「私自身は、同じ盛り上がり方はしないかな」と私見を述べた。さらに、「私は伊藤蘭さんのコンサートに一昨年頃にもチケットを購入して行きましたが、皆さんのコールの輪には入りませんでした。楽しむ流派はいろいろあっていいと思っていて、私自身は『想い出』みたいなものは自分の中にしまっておきたいな、というのがあります」と見解を語った。

 2011年4月に亡くなったメンバーの「スーちゃん」こと田中好子さん(享年55)の不在も大きい。石破氏は「キャンディーズは3人そろってキャンディーズなわけであって、仮に、藤村美樹さんが伊藤蘭さんと一緒にやることがあったとしても、2度と“キャンディーズ”であることはないわけですよ」と指摘。「やはり、(ファン)それぞれの心の中にいればいいものなんだと、私は思っているんですね」との思いを述べた。

 その石破氏、「『一番好きな歌手は誰ですか?』と聞かれたら、岩崎宏美さん、と答えますね」と明かす。

 2月4日で67歳になった石破氏は「岩崎さんは私の2級下(※1958年11月生まれの65歳)ですが、今も全然、お変わりないですね。岩崎さんのコンサートにも年に1回くらい行くんですけど、ご本人も、そして、いわゆる親衛隊の統制の取り方も昔から変わっていなくて、すごいですよ。それなりの努力が必要なんでしょうね。感動しますよ。岩崎さんは歌唱力も含め、天才だと私は思っています。ご本人は江戸っ子っぽい、さっぱりした人です」と絶賛した。

 そうした歌への思いを、石破氏は文藝春秋2月号の「私の昭和歌謡ベスト3」という特集で、34人の選者の一人としてつづった。

 石破氏は、キャンディーズの曲から「やさしい悪魔」(77年)を選び、「それまでのイメージを崩す衣装と拓郎節(※作曲が吉田拓郎)は、今も新鮮さを失わない」と評した。

 「一番好きな歌手」である岩崎宏美の曲は「銀河伝説」(80年)を選択。同曲は東映劇場用アニメ「ヤマトよ永遠に」上映館の幕間で流され、テレビアニメシリーズ第3作「宇宙戦艦ヤマトIII」第1、2話のエンディングテーマに使用された。宮川泰作曲の哀愁を帯びたメロディーに、阿久悠による壮大な世界観が描かれた歌詞を、発売当時21歳だった岩崎がしっとりと情感を込めて歌い上げている。石破氏は「抜群の歌唱力を持つ岩崎宏美の名曲」と定義し、「われわれ『宇宙戦艦ヤマト』世代にとって、ささきいさおの勇壮な主題歌とともに、強く印象に残る」と名作アニメへの思いと重ね合わせた。

 この2曲に加え、石破氏が選んだもう1曲は野坂昭如の「マリリン・モンロー ノー・リターン」(71年)。意外性のある選曲だ。「この世はもうじきおしまいだ」という歌い出しの強烈な歌詞に触れ、石破氏は「ナンセンス・ソングではなく、深い含蓄を持った歌だったことを、閉塞感に満ちた今、痛感させられる」と記している。“焼け跡闇市派”の作家として知られる野坂は参議院議員として国会に足を踏み入れたこともあり、破天荒な言動で権威に立ち向かった。自民党の重鎮の一人でありながら、俯瞰(ふかん)した視点で時には政権批判もしてきた石破氏。同曲を選んだところに、与党内の“在野精神”を感じさせた。

 キャンディーズは「想い出」として、岩崎宏美は現在進行形で追い続け、「マリリン・モンロー ノー・リターン」のような世界観にも目配りする。石破氏の「歌」に対するスタンスはそのようにしてあった。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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