中山千夏、元夫と共作“幻の曲”半世紀ぶり発掘でCD化「歌の力」に驚き、支援する映画「かば」も上映
“天才子役”から俳優となり、歌手、作詞家、テレビ司会者、声優、エッセイスト、参議院議員など幅広く活躍した作家の中山千夏(75)が、元夫で世界的に活躍したジャズ・ピアニストの佐藤允彦(82)と1970年代中期に共作した“幻の曲”を収録した2枚組CDがリリースされた。また、自身も出演し、予告編のナレーションを務める映画『かば』(2021年公開、川本貴弘監督)が、在住する静岡県伊東市で2月10日に上映されることになり、同作への思いも語った。(文中敬称略)
中山と佐藤の夫婦コンビで74-76年にTBSラジオで放送された番組『ザ・ラストショー 允彦千夏のあなたまかせ』で生まれた数々の名曲が発掘された。
同番組は多彩なゲストとのトークに加え、スタジオで自作曲を演奏する佐藤のピアノに合わせて、中山が歌っていたが、その録音が放送局に保管されておらず、「幻の番組」となっていた。近年、同番組の熱心なリスナーの働きかけにより、佐藤の事務所倉庫から当時の録音テープが発見され、昨年12月に『ザ・ラストショー 允彦・千夏のあなたまかせ「今月のうた」コレクション 1974-1976』と題したCDで初めて音盤化された。
半世紀も眠っていた曲には新たな発見と驚きがある。歌手としての中山は69年に自身が作詞、都倉俊一が作曲したデビュー曲「あなたの心に」が大ヒットしたが、放送当時は日本の民俗音楽的な要素も取り入れた「新しいにっぽんのうた」を創作していた時期で、番組内で「今月のうた」として次々に発表していた。
CDに収録された33曲中、中山の作詞は共作も含めて24曲。「野の花」「思案顔ブルース」「私が生まれたのは五月」「十月はたそがれの国」「大和稲刈り唄」といった曲での伸びのある中山の歌声が、多彩なコード進行で従来のポップスの概念を超えた佐藤の曲とリズム感のあるピアノ演奏に絡み合い、唯一無二の作品に昇華している。
また、接点のあった文化人も作詞を担当。劇作家の寺山修司は「あたしの四月」、詩人の谷川俊太郎は「ワクワク」、放送作家の永六輔は「江戸の唄」、漫画家の赤塚不二夫は「休めサラリーマン」(原案)、グラフィックデザイナーの山下勇三は「広島の川」といった曲を残し、70年代カルチャーの貴重な記録になっている。
夫婦の姿を描いたCDジャケットのイラストも手がけた中山。今も佐藤のことは、その名・允彦(まさひこ)から「まあちゃん」と呼ぶ。互いが「放し飼い」状態で、曲作りを楽しんだという作品群について、中山は「今、聴いても面白いです。(当時のリスナーが)まあちゃんの曲に感動したことがきっかけで、こうして世に出た。『歌』って強いですね」と実感を込めた。さらに、「CD最後の曲『舟歌二重唱』では、まあちゃんの声が入っているんですよ。まあちゃんが歌う『黒の舟歌』に重ねて、(中山作詞、佐藤作曲の)『女の舟歌』という曲を私が同時に歌ったんですが、“佐藤允彦の歌声”というのはほとんど世の中にないですからね」と、その希少価値を指摘した。
一方、映画『かば』は10日に伊東市ひぐらし会館ホールで川本監督も来場して上映。85年、大阪・西成の中学校を舞台に、教師と生徒、その家族らが向き合う姿を描いた同作は、差別や貧困というテーマと共に、西成ならではの人情や笑いにもあふれる。
その世界観に通じるテレビアニメ『じゃりン子チエ』(毎日放送製作、81-83年、91-92年放送)の主人公・チエの声を担当した中山も、教師たちが通う飲食店の店主役で賛助出演。「私が出ていると言っても、ヒッチコック(監督)が自分の映画にちょこっと出て来る、ああいう出方で、よく見とかないと分からないです。芝居はほとんどしておりません」と笑った。
ネット公開されている「予告編」ではチエをほうふつさせる声で作品を紹介。中山は「声優の仕事はチエと(NHK人形劇)『ひょっこりひょうたん島』の博士の二つ。それ以外では、日本テレビでドキュメンタリー番組(※『驚異の世界・ノンフィクションアワー』)のナレーションをやっていました」と振り返り、「映画のモデルになった実在の先生(※蒲益男さん、故人)に習った人たちがスポンサーを探し、西成の人たちも協力してできた映画。だから、私も応援しております。今回、ぜひ伊東で観ようと思っています」と思いを語った。
東京から2007年に移住した伊東で文筆活動を続けながら、地元の仲間たちと舞台公演を主催して市民に届けている。中山は「私は舞台出身ですから、舞台袖の雰囲気とか、裏方さんの動きとか、懐かしくて楽しいです。今後もお手伝いしていきたいと思います」と意欲を示し、「そうそう、(自宅で栽培する)きんかん、今年は、すごくおいしくできましたよ」と満面の笑みを浮かべた。
(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)