歯科衛生士から45歳で鉄板焼店の女性オーナーに転身して23年 前職の経験生かしたハンバーグを開発
神戸市の繁華街・三宮の一等地に店を構える「鉄板焼 神戸 Fuji」の長井多惠子代表(68)は元歯科衛生士。神戸の総合病院の口腔外科などで勤務していた。鉄板焼店を開業するきっかけは、兵庫県歯科衛生士会の理事として、歯科衛生士の待遇改善に尽力したものの、自分の無力さを感じていたことだった。チャレンジ精神が旺盛で、もともと料理好きだったこともあり、「いい機会だと思って」と病院の退職金を元手にして2001年に開業。当時、大学生の長男、長女、高校生の次男が店を手伝うなど、家族の後押しもあった。
45歳での転身。最初は軽い気持ちで始めたが、すぐに奥深さに気づかされた。真剣に取り組もうと、最初の10年間は休みなしで営業。3人の子育てを経験したことから「子どもたちとか、幅広い層に受け入れられるものを」と、ステーキだけでなく、お好み焼き、そばめし、焼きそばなどを提供し、まかない用だったハンバーグも客からのリクエストでメニューに加えた。場所柄、ラウンジやクラブなどの同伴客が多かったが、手軽に楽しめるファミリーレストランのような雰囲気もあって、徐々に家族連れなども増えてきた。最近は海外からの観光客も多いという。
歯科衛生士として25年の経験を生かし、人気メニューのハンバーグをバージョンアップ。パン粉と“企業秘密”の2種をブレンドしたつなぎを使い、ひき肉がばらけないよう、誤飲・誤嚥を防ぐ工夫を施している。真空パックにしてECサイトでも販売。小さい子どもから高齢者まで安全で食べやすさを心がけた。味の良さを損なわないように改良を重ねながら完成。「パン粉以外の残り2つの素材に行き着くまでは、3年ぐらい試行錯誤しましたね」と振り返った。兵庫県産の食材にこだわりながら、手頃な値段に設定するには苦労も多そうだが、「あまり原価を考えたことがないんですよ。お客さんが来たらいんじゃないかって」と“コストパフォーマンス”はそれほど気にしていない。
豚インフルエンザ、コロナ禍などを乗り越えて23年営業を続けている。現在は神戸市北区にも出店。他にもオファーがあっても、現時点では店舗展開をするつもりはない。「お店というのは魂が宿っているというか、やっている人が真剣にやらないと、なんちゃってになるんで」。使っている材料が同じでも、同じ仕上がりになるかどうか分からない。「守備範囲が広がると目が届かない部分もありますから」と慎重な姿勢だった。
歯科衛生士専門学校の講師を目指して大学の通信教育課程を卒業するなど、さまざまな経験を重ねてきたが「無駄なことはなかった」と長井代表。「食を通して、神戸の良さを発信していきたいですね。神戸ってすぐ近くにおいしい野菜、肉や魚もありますから。神戸の良さをもっと押し上げていきたいですね」と、最近は店に立つ事も少なく、息子に任せているが、これからも国内外に神戸をアピールしていく。
◆長井多惠子(ながい・たえこ)1955年生まれ、68歳。岡山県出身。1975年に歯科衛生専門学校を卒業後、神戸市で歯科衛生士として総合病院の口腔外科などで勤務。勤務の傍ら、1982年に仏教大学文学部通信教育課程卒業。歯科衛生士を辞めて、2001年に神戸市内に「鉄板焼 神戸 Fuji」をオープン。現在、同店を展開する有限会社こんぱす代表を務める。兵庫・但馬 香美町観光大使。
(よろず~ニュース・中江 寿)