性被害公表の尼僧が告発、天台宗務庁は「事実関係を調査中」 識者は「禁欲は性暴力につながることも」と私見
14年間にわたって寺の住職から性暴力を受けたと被害を公表した50代の尼僧が会見し、「壊れたカセットテープのように、受けた暴言が頭の中を回っている。処分をお願いしたい」と訴えた。代理人の弁護士は「懲戒にとどまらず、第三者委員会設置と公正公平な調査を求める」と述べ、“聖域”における根深い問題として波紋が広がっている。ジャーナリストの深月ユリア氏が、寺院側の担当者や他宗派の識者に話を聞いた。
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四国地方の天台宗寺院に住んでいた尼僧・叡敦(えいちょう)さんが4日に滋賀県大津市内で会見し、2009年から住み込み始めた寺で、住職から「逆らうと地獄に落ちる」などと脅され、日常的に性行為を強いられたと告白した。
天台宗務庁に取材したところ、「事実関係を調査中です。(性加害をしたという)僧侶にも話を聞いています」。叡敦さんの主張を受け止めているかについて確認すると、「このようなケースは双方の言い分を聞かないとならないと考えております」。
このような性被害はかつてあったのかと聞くと、「全くなかったわけではありません」と詳細は語らなかったが、過去、天台宗では善光寺(長野市)のトップだった当時80代の貫主(かんす)が女性職員に対してセクハラなどをしていたという疑惑が浮上し、天台宗務庁による事情聴取を経て、18年に解任されたという出来事があった。
天台宗は性被害防止に何らかの対策をうつのか。「性被害のみならず、人権に対する意識を高めるための教材を用いて職員に啓蒙していく予定です」。それが、どんな教材か、どのような形で啓蒙していくのか、具体案は現時点で未定だそうだ。
なぜ、天台宗で性被害が続いたのか。その疑問を解くため、他宗派の立場からの見解を聞こうと、浄土真宗僧侶の酒生文弥氏を取材した。酒生氏は松下政経塾1期生で、地方創生株式会社代表取締役社長、在日本ルーマニア商工会議所会頭など幅広く活動。仏教とリンクした活動としては、サンガ(仏法につどう仲間)たちが集うネットワーク的組織「光寿院」の代表を務めている。
酒生氏は天台宗について「日本の伝統仏教の中でも修行と戒律に重きを置く宗派です。滝行、護摩炊き、千日回峰行(※約1000日間に渡り、比叡山の山中を真言=真実の言葉を唱えながら歩く荒行)まで、摩訶止観(まかしかん、※中国・隋時代の仏教書。または、心を乱さずに正しい智恵で一切の対象を正しく観察するようなる瞑想法)を得るための基本は荒行です」と説明。その上で、同氏は「禁欲は得てして性的倒錯や性暴力につながることは、比叡山でもバチカンでも古来よく見られてきた非行です。尼僧さんが訴えておられることも、この古くて新しい問題の一例かもしれません」と自身の見解を元に推測した。
宗教組織の聖職者はヒエラルキー(※階層的な身分制度)的に格付けされることもあるという。そうした土壌が存続する限り、今回のような問題が起きる度に、現在の人権感覚に沿った対応がなされているかどうか、社会から向けられる視線はより厳しくなっていくだろう。
(ジャーナリスト・深月ユリア)