女子プロレスとアイドルの親和性とは 映画「家出レスラー」岩谷麻優を演じた平井杏奈に聞く
IWGP女子王者、スターダム・岩谷麻優の自伝本を原案とした映画「家出レスラー」(ヨリコジュン監督)が17日に公開される。岩谷をモデルとした主人公・マユを演じる平井杏奈(27)は自伝を読み「境遇や経験、考え方で共感するところ、共通点があまりにも多くて運命を感じました。絶対に岩谷選手の半生を演じたかった」とオーディションに参加し、自身初の主演をつかんだ。平井が話す共感、共通点は自身のアイドル時代に起因するという。元アイドルの選手が珍しくない女子プロレス界。その理由の一つが垣間見える取材になった。
平井は1996年10月28日生まれ、東京都出身。芸能活動は5歳で始めたというが、岩谷がスターダム1期生として入門したのとほぼ同時期、2010年にあるアイドルグループの1期生としてグループデビューを果たした。
オーディションを受ける際はプロレスへの知識はなかったが、岩谷の自伝に感銘を受けた。
「アイドルでデビューした当時の私はとにかく泣き虫でポンコツでした。練習中につらくてトイレに逃げて、何時間もこもったり。仲間との別れも多かったです。1期生の同期、後輩もどんどん辞めていき、その度に立ち直れない程に泣きました。この前、久しぶりに当時のスタッフさんと会った時に『1期生で一番早く辞めると思ったら、一番長く居たね』と言われました。岩谷選手の自伝で書かれていた経験は、精神的な部分でも共感したんです。周囲からも似ていると言われることが多く、嬉しかったです」
岩谷もスターダムでデビュー後はスタミナ、技術不足を指摘され、自他共に認める“ポンコツ”だった。映画では団体の危機に直面する中で覚悟が芽生え、女子プロレスのアイコンへと成長する姿が描かれる。
平井はグループが解散する2017年までアイドル活動を全う。その後は女優として舞台、カメラの前に立つ。アイドル時代はメンバーの脱退のほかに、信頼していたスタッフとの突然の別れなど、様々な問題が続き、幾度も厳しい状況に向き合った。自身も脱退や移籍の考えが浮かぶ時もあった。「それでも、このグループを守るではないですけど、この先どうなっても最初から最後まで絶対に居ようと思いました。グループを支えたい、という気持ちだったのかな」という当時の心境は、劇中のマユとも重なるところだろう。
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初経験となったプロレスは、マユの戦友である羅月役を演じた朱里が指導をし、マユの同期で理解者である東子役のゆきぽよら女優陣と一緒に猛特訓を受けた。「練習初日は絶望的でした。両足がつって、止まらない息切れをしながらリングの端でへばっていた」と、練習の厳しさに面食らった。印象に残るのはロープワーク。「プロレスラーの皆さんは簡単に見えるくらい華麗にするじゃないですか。だからロープがあんなにも硬いことを知りませんでした。実際にやってみて本当に痛かったし、つらかった」と語り、「無謀さも感じたんですけど、岩谷選手の存在がどんな時も自分を奮い立たせてくれました。岩谷選手が多くの苦難を乗り越えて、アイコンとして輝いている現実を演じなくてはならない。岩谷選手の存在、基礎から技までたくさん教えてくださった朱里選手、多くの方の支えがあって乗り越えることができました」と振り返った。
役作りでは岩谷の口調やしぐさを研究する他にも「岩谷選手は細身なので」と減量に取り組んだ。プロレス特訓をしながら、1ヶ月弱で13キロ減量したという。撮影中、ゲスト出演のプロレスラー天山広吉が、平井のことを岩谷本人と勘違いするほど、役に没頭した。
プロレスラーを演じる上で、「いろんなトラブル、困難が本当に多かった。10代の頃に精神力を結構鍛えられたので、何が起きても頑張れる力というか、逃げずに立ち向かえる力は、グループ時代に培ったもの。アイドルをやる前だったら絶対無理でした。その経験が岩谷選手のポンコツ時代とリンクするところも多くて頑張れたとも思います」と、アイドル時代の経験が生かされた。
それでも「ステージとリングは違います。『家出レスラー』に出会ってプロレスを大好きになったことで、選手の皆さんが死に物狂いで鍛錬をして、命を削って闘う場所がリングなんだと分かりました。だから絶対にプロレスラーの皆様に失礼のないように、特別な場所であるリングに覚悟を持って上がろうと思いました」と、プロレスへの敬意を示しながら述懐した。
スターダムでは元ワールド王者の中野たむ、水森由菜が元アイドルのプロレスラー。他団体でも東京女子で現役アイドルのSKE48・荒井優希が活躍するなど、多くのアイドル出身選手がリングに立つ。「確かに多いですよね」と語った平井が、自身の経験を踏まえて語った。
「選手一人一人に本物のドラマがあって、(観客は)その物語を目の当たりにできる。本当にすごいことだと思います。リングの外で困難、苦労があったとしても、それはリングで生き様を見せることにつながる。アイドルとの共通点もあるかもしれないですね」
元アイドルで、トップレスラーを演じた女優の立場からの意見は、案外珍しいのかもしれない。現在は公開が目前に迫った映画の素晴らしさを広げることが目標。映画の魅力、プロレスの魅力をもっと知ってほしい。「プロレスを知っている方はもちろん、プロレスを知らない方もきっとプロレスを好きになると思います。幼い子供、学生の方から大人まで、老若男女に楽しんでもらえる作品だと思います」。そう言って、にっこりとほほ笑んだ。
(よろず~ニュース・山本 鋼平)