中江有里が体験した通信制高校の実際、今では選択肢の一つに 小説が文庫化、読書への思い「本は非常口」

 書評家、作家、俳優、歌手として多彩な活動を続ける中江有里は通信制高校を20歳で卒業した。そんな自身の経験を元にした青春小説「万葉と沙羅」(2021年、文藝春秋刊)の文庫版が書き下ろしエッセイと共に新刊として出版された。中江がよろず~ニュースの取材に対し、「通信制での学び」や「本」への思いを語った。

 中学で登校拒否になった少女・沙羅(さら)が、1年遅れで入学した通信制の高校で幼なじみの少年・万葉(まんよう)に再会。古書店でアルバイトする万葉から読書の楽しさを教えられ、2人は「本」を通じて成長していく。作中、宮沢賢治「やまなし」、新美南吉「ごん狐」、福永武彦「草の花」「廃市」、遠藤周作「砂の城」など25作品が紹介される。

 中江は「万葉は『万葉集』、沙羅は『平家物語』に出てくる『沙羅双樹』から取りました。その2人を媒介していくのが『本』なんです。登場する本は私が好きで読んだものが大半です」

 自身は地元・大阪の私立高校に入学した89年に15歳で芸能界デビュー。上京後、都立の定時制2校を経て、19歳になる年に都立新宿山吹高校通信制に入った。

 「段々と仕事が忙しくなって、全日制にも定時制にも行ける高校がなく、最終的に通信制しか残っていなかった。最初、不安はありましたが、普通に勉強して、友だちとも出会い、通信制を卒業したことは忘れがたい体験でした。ずっと、そのことを書きたいと思っていた。通信制の学校も一つの選択肢としてある…ということを知ってもらいたかった」

 中江が卒業した通信制高校には「学年」という概念がないという。最短3年で卒業もできるが、自分のペースで時間をかけて卒業する人もいる。登校は基本的に週1回。授業はあるが、独学でレポートを提出し、もちろん試験もある。中江は「自分を律することが全日制以上に求められるので、結構、大変です」と付け加えた。

 10代の読者を想定して書いたが、親世代からの反響も多かった。

 「通信制に不安を持つ親御さんが多いんです。『週に1回しか学校に行かないって、どういうこと?』と。私が通っていた30年以上前、通信制高校は都内で3校くらいでしたが、今は数え切れないくらいあり、通信制の生徒は15人に1人くらいと、一般に想像されているよりも多い。全日制、定時制、通信制という選択肢の1つになっています」

 さらに、中江は30代半ばで法政大学通信教育部の日本文学科に入学。2013年に4年で卒業した。

 「この先、本の仕事をやっていくと考えた時、体系的な知識が自分には圧倒的に足りない、もっと知識を深めていきたいと思い、働きながら学べる通信制大学に入ることに決めました」

 当時、NHK-BSの番組「週刊ブックレビュー」で薫陶を受けた俳優・児玉清さん(11年死去、享年77)と共に司会を務めていた。中江は「児玉さんは何でもよくご存じの方で、教えていただいたこともたくさんあったので、『自分がもっと勉強しなくちゃ』という思いになったことは、やはり大きかったですね」と実感を込めた。

 本は「非常口」だったという。

 「日常生活の中、つらいこと、嫌なことはいっぱいあって、それでも生きていかなきゃいけない時、現実逃避できる場所が私にとって『本』でした。本という『非常口』から逃げていいんだと。私は子どもの時に1人でいることが多かったので、本を読むことが常だった。孤独でいることを怖がるよりも、本によって孤独でいることが肯定される。本を読むことしか自分の居場所がなかった10代を送った経験が、この『万葉と沙羅』という小説にも反映されていると思います」

 その本が文庫として再び世に出た。「もう1回、(書店で)皆さんの手に届くところに置いていただけるということは、書き手にとって一番の喜びです。通信制が一般的になってきたからこそ、『通信制にも青春があること』を伝えたい。(学びに)年齢は関係ない。私はいま50(歳)ですけど、いまからでも学べることがあれば学びたいと思います」。通信制高校生の時代から、思いは一貫している。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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