シリーズ最新作「ウルトラマンアーク」見どころを識者に聞く「昭和の魅力残しつつ」「とても入りやすい」

 人気テレビシリーズの最新作「ウルトラマンアーク」(テレビ東京系、毎週土曜・午前9時)の第1話が6日に放送された。2013年の「ウルトラマンギンガ」を皮切りとした「ニュージェネレーション」の系譜に連なる作品。今年1月に同系譜の初期5作品を扱った「ウルトラマン ニュージェネの証 『ギンガ』、『ギンガS』、『X』、『オーブ』、『ジード』&ゼロ」(ホビージャパン)を上梓した批評家・切通理作さんに見どころを聞いた。

 数々のアニメ、特撮、映画の著書を出し、ウルトラマン全般の取材を長く積み重ねてきた切通さん。「-ニュージェネの証」は初期5作品に関わった40人以上にインタビューを敢行した力作で、もちろん新作「アーク」にも熱い視線を向ける。第1話の放送を受け「ウルトラマンシリーズの原点である『ウルトラQ』のような『その怪獣がなぜそこにいるのか』というSF性に立脚されていて、平成以降のウルトラマンを知らない人でも見やすいと思います」と、長らくウルトラマンから離れている、かつてのファンとの親和性を口にした。

 怪獣災害が日常化し、日本では地球防衛隊が武力で怪獣への対処を行う世界が舞台。防衛隊出動の前段階で、科学調査や避難誘導を担う怪獣防災科学調査所(通称「SKIP(スキップ/Scientific Kaiju Investigation and Prevention center)」)の新人調査員・ユウマ(演・戸塚有輝)が主人公で、未来を守る光の巨人「ウルトラマンアーク」へと変身する。

 切通さんは「主人公たちが、怪獣が原因か定かでない“怪事件”の段階から調査を行うところにSF性を感じます。第1話の時点で、もうウルトラマンは活躍していて、なぜそうなったのかという興味を引かせる作りになっているというところも、好奇心を刺激されます」と、新たな演出に感心した。

 防衛隊から調査所に派遣された石堂シュウ(演・金田昇)も、重要なキャラクターであることを予感させる。「エリートであるシュウが主人公と一緒に捜査をしていますが、彼からの視点で登場人物が紹介されていく。でも彼には何か秘密があるんだろうな、と見ていて思いました」と、謎を呼ぶ演出に関心を向けた。

 メイン監督の辻本貴則氏を「2015年の『ウルトラマンX』から参加されていて、メインは初めてですが、今回もミニチュアに絡めた合成に力を入れていますね」と評価。「出来る限りワンカットで見せるという、視聴者の意識を途切れさせない工夫と、市街を一望できるミニチュアセットのパノラマ感を併せ持っていると思います」と興味深そうに話した。怪獣との戦闘シーンでの、それを「どこから見ているのか」という視点の工夫や、怪獣とウルトラマンのバリアを介した攻防にも関心を寄せる。「昔のウルトラマンの面白さの“延長”をアクロバティックにやっている印象です。前作の『ブレーザー』から新しい怪獣の比重が増えているので、その点も期待できますね」と言及。「ニュージェネレーション」シリーズはでペギラ、ゼットン、ガラモンといった歴代のスター怪獣の新たな魅力が引き出されてきたが、新たな名怪獣が次々誕生する予感が漂っているのだという。

 2013年にスタートした「ニュージェネレーション」。特徴としては第1作「ギンガ」が全11話(別に特別編1話)で、現在は放送期間が半年に固定されている点を挙げる。「第1話から最終回まで逆算して作られている。東映の1年間のシリーズ(スーパー戦隊、仮面ライダー)よりも本数が少ないので、考え抜かれ、逆算された展開になっています。例えば『ギンガS』では最後に味方側の基地が怪獣になるのですが、それがクライマックスに来るように盛り上げた話になっていました。ウルトラマンには1話完結の面白さもあるので、それも意識されています」と語った。おもちゃ展開を意識してか、変身後にサーベルなどの武器を使用し、変身の第1段階として腕や体にインナー装具を身につける点が特徴。ただ、前作と今作はインナー装具の描写がほぼなくなっていた。

【次ページ】ウルトラマン、スーパー戦隊、仮面ライダー…シリーズ別特徴とは

 現在も地上波テレビで放送されている特撮ヒーローものはウルトラマン、スーパー戦隊、仮面ライダーの3種類。ウルトラマンの円谷プロ、スーパー戦隊と仮面ライダーの東映では特徴が異なる。「少子化の中、子どもが大人になっても見られるようにという工夫はベースにあると思いますけど」と前置きした上で「スーパー戦隊シリーズでは、フォーマットは共通していますが、始まってしばらくは仕切り直し、リセットして次の作品が始まっていました。仮面ライダーは逆に昭和の頃は先輩と後輩の関係があったけれど、平成以降は連続性が普段希薄で、そもそも改造人間という設定にもこだわらなくなった。映画や周年などアニバーサリー的な作品では集結、横断し共演しますが、基本的にはそれぞれ別々の世界になっています」と言及。一方のウルトラマンは「世界線はマルチバースですけれど、伝統へのリスペクト度がより高く、昭和から見ている人も“ニヤリ”とするような点も意識し続けているように感じます」と話し、「この点は東映と円谷プロの違いですね。東映も当然二つのコンテンツを大事にしていますが、基本的には長い歴史を持つ映画会社の数多いコンテンツの一つ。円谷プロは『ウルトラマン』が設立の基本にあるので、自然に制作陣も精神性を大事にしているように思います。最近の円谷プロは『想像の力』『空想の力』という理念を打ち出していますが、もともとは『空想特撮シリーズ』ですから。そうした根本のありかたを定義づけているのは特徴的でしょうね」と語った。

 特撮の取り組み方にも特徴が分かれる。「ウルトラマンは巨人として描かれていて、ミニチュアセットでの爆発の方がクライマックスになる傾向にあります」としつつ「仮面ライダーは等身大のヒーローで、昭和の作品を見返しても、バイクの後方の爆発がものすごく大きいですよね。地形が壊れるんじゃないかと思うぐらい」と述べ、ロケ現場で等身大のキャラクターが登場する爆発の方が派手に描かれる点を指摘。「仮面ライダーは本当のダムの水が流れているところで、ごくわずかなスペースしかないのにバク転したりする。しかも生身よりは動きにくくなるスーツや仮面をつけて。『特撮』というジャンルには入れられていますけど、アクションものの要素が大きい。ライダーと戦隊は『子どもが初めて接するアクション映画』だと言う声もありますが、さもありなんと思います」と語った。

 特撮への思い入れが強い円谷プロと、アクションが派手な東映。一方で平成、令和と時代が進み、3つのシリーズともCG演出などの進化が目立つ。ストーリー展開にも変化を感じるという。

 「ウルトラマンが半年間で綿密に計算されている一方、仮面ライダー、スーパー戦隊にも攻めた工夫を感じます。例えば昨年の『仮面ライダーギーツ』は、かつて仮面ライダーの“バトル・ロワイヤル”と言われた『仮面ライダー龍騎』(2002年)とはまた違うかたちでライダーの生き残りゲームが描かれるのですが、数話単位でルールが変わって、最終回並のクライマックスが繰り返される。何回も盛り上がりを作って、中だるみを作らないようにしているように見えました。戦隊ものでも昨年の『キングオージャー』はエポック的な作品で、LEDウォールという新技術を導入して、多くの場面でロケに行かず合成された背景、世界で役者が演技をしている。それで1年間の大河ドラマを成立させていました」

 3つの特撮ヒーローシリーズの進化を楽しそうに語った切通さん。自著「-ニュージェネの証」に関して、改めて「『ギンガ』から最初の5年間を追いかけて、スタッフキャストにインタビューをしたという内容です。僕がやりたかったのは、それ以前の平成シリーズから人の流れ、受け継がれているものを文字にすること。精神的な部分では昭和のウルトラマンからつながっていると感じましたね」と語った視点は、当然「ウルトラマンアーク」にも通じるものがある。「過去とのつながりを残しながらも新しい世界で、昭和の魅力を残しつつ、特に『アーク』は1話完結の面白さが描かれていると感じました。とても入りやすい作品だと思います」と締めくくった。

(よろず~ニュース・山本 鋼平)

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