100万円近くまで高騰した伝説のレコード 坂本龍一らによるインスト盤も初音源化!Z世代にも訴求力!?
音楽配信が浸透した時代にあっても、レコードやCDといった「モノ」を所有したいリスナーの思いは根強くある。入手困難な廃盤として高額取引される超レア盤の1枚だった伝説のアルバム「ピラニア軍団」が28日、キングレコードから再発された。その背景について関係者に話を聞いた。(文中一部敬称略)
LPレコードは1977年の発売以来47年ぶり、CDとしては99年以来25年ぶり。キングレコード制作部の渡菜保子プロデューサーは「10年前だったら、CDの再リリースがかなっても、LPは出せなかったと思います。ここ数年の盛り上がりで、LPで所有したいという方がすごく増えた印象があります」と指摘した。
さらに、渡氏は「検索すると100万円近い価格もあり、驚きました。しかし、そうしたプレミア価格だから(レコードを)出そうということではなくて、『本当に手に入らない』という口コミや、社内の20代男子からも『欲しいです』という声があがるなど、今までにない反響があり、『これはもう出すべきでしょう』という感じでした。特別な作品だと思います」と振り返る。
作詞・作曲、プロデュースを担当したフォーク歌手の三上寛は「今は無料で音楽を聴ける時代だけど、レコードを部屋に置いておくだけでなんか違うんだよね。アナログって、微かに針が滑る音がまたいいわけですよ。聴く度に味が出て来る。その良さを今の若い人たちが知り始めたのかもしれません。いいことじゃないですか」と歓迎した。
また、LP再発だけでなく、CDには初音源化となる全13曲の(ボーカルのない)「インストゥルメンタル」盤が2枚目として加わったことも特筆される。キングレコードの保管倉庫から発見されたテープに収録されていた音源で、77年の録音時以来、使用されたことがなかった貴重なものだ。
坂本龍一と佐藤準が編曲とキーボードを担当し、村上秀一、かしぶち哲郎、林立夫らのドラム陣、後藤次利(ベース)、芳野藤丸(ギター)、斎藤ノブ、浜口茂外也(ともにパーカッション)ら一流プレイヤーが参加。東映の大部屋俳優集団「ピラニア軍団」による個性的なボーカルが“引き算”されたことによって、卓越した演奏力や今も色あせない音楽センスが浮き彫りになった。
渡氏は「当時のエンジニアのミックスをそのままにマスタリングしました。その時代の息吹が感じられる音源になっていると思います」と解説。同社の板橋和彦・マーケティンググループ長は「今の20代の人たちが面白がれる音」と付け加えた。
例えば、演歌のレコードを数多く出してきた志賀勝の曲「役者稼業」では、その土着的な声のバックに坂本の編曲によるアーバンなソウルミュージックが流れる。こうした化学変化に対し、板橋氏は「和と洋のソウルが奇跡的に融合した作品になっている」、渡氏は「ボーカルのすごさとインストのすごさのギャップが良質過ぎる」と評した。
若き日の坂本レア作品を編集したCDブック「Ryuichi Sakamoto-Year Book 1971-1979」(2016年発売)には「役者稼業」が収録されており、ブックレットには本人による「こわいもの見たさの反対で、こわいところを見たくないから、歌入れの現場には行かなかったと思う」といった証言が残されている。よい意味で相手に合わせず、己のスタイルを貫き、互いの個性がぶつかり合った。
三上は「当時、役者の歌入れは、ほこりだらけで、窓もないような東映京都の広いスタジオでやった。それが何とも言えない、いい空間でね。深作欣二監督も見に来て『お前ら、何やってんだ?』って(笑)。もう2度とできないでしょうけど」と懐かしみながら、「インストがものすごくオシャレなので、亡くなった軍団メンバーの曲はアイドルに歌ってもらっても面白い。アングラじゃなくて、思い切りメジャーに行った方がいい」と今後の構想を膨らませた。
LPとCDの初回製造分には「ピラニア軍団」トートバッグのプレゼント応募抽選券が封入。よみがえった軍団がバッグにも姿を変え、令和の街に出現する。
(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)