大河『べらぼう』吉原俄(にわか)が中絶した悲しい理由 識者が語る

 NHK大河ドラマ「べらぼう」第12回は「俄なる『明月余情』」。蔦屋重三郎が『明月余情』の序文を平沢常富に依頼する場面が描かれていました。常富は、出羽国久保田藩(現在の秋田県)に仕える武士でしたが、同時に朋誠堂喜三二のペンネームで知られる戯作者だったのです。

 さて『明月余情』は安永6年(1777)8月吉日に蔦屋から刊行されていますが、同書は新吉原の「俄」(にわか)を描いた絵本です。「俄」とは吉原の遊郭で行なわれた即興の寸劇のこと。先ずその起源を見ていきましょう。

 吉原における俄は、一説によると享保19年(1734)に行われたとされます。吉原遊廓内には稲荷を5ヶ所に勧請していたのですが、それは新町は「九郎助」、江戸町には「榎木」、伏見町には「明石」、京町には「愛敬」、五十間には「吉徳」という状態でした。それが享保19年になって「九郎助稲荷」(「べらぼう」では女優・綾瀬はるかさんが演じています)が正一位の官位を受けたのを機会として盛大な祭礼が行われるのです。

 吉原内の男女が練り物(神輿などを中心とした祭礼行列)を催し、これを「俄」と称したというのです。しかしその時の俄は祭礼の余興に過ぎませんでした。それが吉原の行事のようになったのは、明和4年(1767)のこととされます。

 それからは「年中行事」のようになって俄は続いていたのですが、ある出来事により中絶することになります。それが「べらぼう」初回の冒頭で描かれていた大火、いわゆる「明和の大火」(明和9年=1772)です。この大火の要因は放火であり、犯人は長五郎(真秀という願人坊主)でした。

 そしてこの犯人の捕縛に尽力したのが「べらぼう」に登場している長谷川平蔵宣以の父・宣雄だったのです。死者1万人以上だった大災害の犯人は、火炙り刑で処刑されます。この明和の大火により、吉原の俄は中絶してしまいます。それが再興されたのが安永4年(1775)のことでした。再興された俄の評判は上々で「俄の評判、是を見ぬ人は人間の数に入らぬ」と言われるほどのものだったとされます。

 ◇主要参考・引用文献一覧 ・稀書複製会編『稀書解説 第2編』(米山堂、1922)・三田村鳶魚校、山田清作編『未刊随筆百種 第二』(米山堂、1927)

(歴史学者・濱田 浩一郎)

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