アプリもお金も不要『ご自由にお持ちください』文化とは?

 アプリで不要品を取引きできる時代、ただ軒先に置いておくだけという文化をご存知だろうか?「ご自由にお持ちください」という張り紙とともに、家具や食器、植物、子供用品などが箱に入れられ、ほしい人は自由に持っていく。大阪や東北、北海道で暮らした筆者が東京都杉並区で初めて見かけた文化である。散歩をしていると、一軒家やお店の前などどこかに必ずある。家主が亡くなったり、引っ越し、閉店の際などに出すことが多い。季節の変わり目にもよくある。なかでも高円寺、阿佐ヶ谷、西荻で盛ん。なぜこのような文化があるのか調べてみた。

●アートイベント「0円均一商店街」が広めた説

 杉並区の方に聞き込みをすると各所で話に出てくるのが「0円均一商店街」という取り組みの存在。西荻窪のアートイベントの中の企画で、参加者が不要なものを箱に入れて置いておくという、まさに『ご自由に-』文化そのものだ。主催している美術家・高島亮三さんに話を聞いた。

 「0円均一は2011年から始めていますが、きっかけは住んでいた西荻窪で既にそのような文化があったからです」

 「フリーマーケットとも違う、会話もない、コミュニケーションが発生しない手軽な仕組みが魅力で、自身もよく軒先に置いたり、もらったりしていました」

●アンティークのまち「西荻窪」発祥説

 次に高島さんが2001年から3年間住んでいたというその西荻窪に向かった。確かに「ご自由に-」との張り紙とともに、ハンガーや子供服などの入った箱をいくつか見かける。そのうちの一つ、コミュニティスペース「まちナカ・コミュニティ西荻みなみ」で聞いてみた。西荻在住約50年の住人は「私が子育てをしていた40年ほど前には、同じように道端に家具がおかれていましたよ」と証言。そしてコロナの頃に増えてきたという実感があるそう。

 西荻窪はアンティークの町としても有名。関東大震災のあと、旧東京市からの転居者が増え、その後また都心に戻っていく際に不要な調度品を売却したことから、骨とう品を扱う店が増えたと考えられている。そのような文化が「ご自由にお持ちください」の発祥と関係しているのではないか、という意見もあった。

●サブカルチャーのまち「高円寺」

 高円寺でも同様の文化は盛んだ。ウェブメディア「ツブサ」で高円寺の『ご自由にお持ちください』について特集したデザイナー・よしだあさみさんは、これまで埼玉県や調布市などに住んだが、高円寺ほど頻繁にこの文化は見なかったという。高円寺について「持ち帰る袋をつけたり、食器のこの部分が欠けています、などの説明書きがあったり、もらう人の気持ちを考えているのが高円寺らしいと思います」とよしださん。「お金などの利益を得ようとするのではなく、誰かの役に立てればそれが利益、気持ちの面の豊かさを大事にしている人が多いというのがこの文化につながるのではないかな、と思います」

 一見やり取りの発生しない、あっさりとした文化のように見えるが、その裏には、エコ、そして人を思いやる土地柄が垣間見えた。練馬区や台東区、荒川区でも同様の文化が見られるという。高島さんも、現在住んでいる西東京市でも広めるべく活動を続けている。

【取材協力】

・中央線あるあるプロジェクトhttps://www.chuosen-rr.com/

・まちナカ・コミュニティ西荻みなみhttps://nishiogi-machinaka.org/

・0円均一 高島亮三さんhttp://www.takashimaryozo.jp/zero/

・西荻案内所https://nishiogi.in/

・ツブサhttps://shige-gourmet.jp/

 (デイリースポーツ特約・遠藤萌美)

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