相続争い 妹に騙されそうに!心も体もボロボロ 一般家庭こそ危ない!?今できる対策は?

姉妹で相続争い、心も体もボロボロに ※写真はイメージです(Ameashi/stock.adobe.com)
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 はじまりは2023年の8月、家庭裁判所から届いた一通の茶封筒。心当たりの無い封書を不思議に思いながらも、貴子さん(仮名・70代)は中身を見てあ然とした。そこには数カ月前に亡くなった父の遺産相続について末の妹・昌子(60代・仮名)が家庭裁判所に調停を申し立てたという内容が記されていたのだ。

 貴子さんは三姉妹の長女。母は数年前に他界。実家から離れた場所に住んでいるため、父親の介護、特別養護老人ホームへの入所の手続き、死去後の手続きは全て実家の近くに住んでいる次女・裕子さん(60代・仮名)が行った。落ち着いた頃、貴子さんの元に次女から電話があった。

 「遺産の事だけど、父さんが前に『全て裕子に譲る』って言っていたのね。お姉ちゃん、それでいいかな?もし良かったら相続放棄の書類を書いてほしい」

 普段から2人はよく連絡を取り合っていた。父の身の回りの世話をしてくれていた次女に感謝の気持ちを持っていた貴子さんは「全て、ということはあまり多くない金額なのかな」と思い、遺産の内容は聞かず、相続放棄を承諾し必要な書類を送った。次女はこれから三女にも同じように連絡すると話していた。

 その数カ月後、冒頭のように三女が訴えを起こしたことがわかったのだ。裁判所の書類を確認後、すぐに次女に電話をかけると思ってもみない事実が判明する。貴子さんは遺産について実家の建物と土地の不動産があることは知っていたが、現金も3000万円以上あるとのこと。決して少なくない金額に貴子さんは「どうして妹は金額を言ってくれなかったのか。だまされたような気分」だと感じた。

 このような相続トラブルは決して珍しくない。遺産分割に関する裁判件数は年々増加。司法統計年報によると、遺産の総額は1000万円以下で約3割、5000万円以下で8割近くにのぼる。相続トラブルは莫大な資産を抱えた富裕層での話ではない。

 弁護士法人・響の古藤由佳弁護士に相続トラブルが増えている背景を聞いた。

 「日本は超高齢社会を迎える中、家族間のつながりが希薄になってきています。遺産に対しての意思確認が出来にくくなっていることが要因として考えられます」

 遺産の総額5000万円以下の家庭でトラブルが多く起きていることについては「資産が大きい家庭は元々専門家が入り、節税などの対策を取っていることが考えられます。一方で、対策をとっていない家庭でトラブルが起こってしまった場合、5000万円以下は決して少なくない金額なので、簡単にあきらめるには惜しいという思いでトラブルになりやすいのではないでしょうか」という。

 貴子さんの相続トラブルは数カ月たっても、いまだ解決への道筋は全く見えていない。ネックとなっているのは、実家の不動産だ。誰も引き取りを希望していないのだ。法律上、相続放棄をする場合、一部の放棄は認められていない。つまり不動産と現金がある場合、どちらも相続するか、どちらも手放すか、どちらかを選ばなくてはならないのだ。家屋には今だれも住んでおらず、解体し土地を売却すると数百万円の利益が出る見込みだが、手続きの煩わしさが理由でだれも相続しようとしない。

 話し合いが進むにつれ、3人の仲もこじれていく。三女が今回の件で次女に酷い言われようだったとして、慰謝料として現金の半分が欲しいという主張を始めたのだ。すると今度は次女が、過去に三女に対して「実家の近くに住んでいるのだから介護を手伝ってほしい」と依頼したが断られた、と三女を非難。そして三女は長女・貴子さんに対しても「私が調停を申し出たのに、姉さんが権利を主張するのはおかしい」との意見をぶつけた。

 まさに泥沼化。貴子さんは思ってもみなかった妹たちの態度や言葉、度重なる調停で、精神的にも身体的にも疲れてしまったと話す。

 「相続についてこれまで考えたことが無かった。私は実家から離れていたため、コロナ禍でなかなかみんなと会えない中、父が調子を崩してしまった。姉妹でも信用できなくなるとは。もう3人の仲は修復できない」

 このトラブルは今後どのような展開になることが予想されるか、古藤弁護士の意見を聞いた。

 「そもそも、口頭での遺言は法律的に認められません。形式に則って紙に自筆されたものしか効力が無いのです。そのため、今回は法律通りの割合で相続財産を分け合うことになります。今回の場合、相続人は3人なので、基本的に一人当たり総額の3分の1を受け取れます。問題となっているのは不動産です。今回、最終的に相続人が土地建物を相続するつもりがないのであれば、建物を解体し土地を売却する費用もテーブルに乗せて話し合うことをお勧めします。3人それぞれが業者を選定し、見積もりを取ってもらい妥当な費用がどのくらいなのか調べる必要があります。面倒くさいからこそ、折角頭を突き合わせて話し合うこの場で、具体的な解体・処分の道筋を決めてしまうのがいいでしょう。土地の売却益から、手続きの費用を差し引き、余った利益を分割するのがよさそうです。それから三女の慰謝料に関する主張は、一般的には、慰謝料が発生する事案とは認められないと思います」

 -解決まで、どのくらいの時間がかかるでしょうか?

 「裁判所は合意を形成することが目的です。それぞれの気が済むまで意見が出尽くしたというところまで話し合いは続きます。一般的には早くて1年といったところでしょうか。もし三女が意見を曲げないのであれば、数年かかる見込みはあります」

 -相続トラブルは大変な労力がかかりますね。

 「裁判所の調停では当事者を一人ずつ呼び出し、それぞれの意見を語ってもらいますので、かなり時間がかかります。他の人の意見を人づてに聞くことになり、対面よりも相手の言葉に不信感をもってしまうこともあります。また、裁判所に行くだけでも回数を重ねるごとに身体的にも疲弊しますよね」

 -やはりトラブルになることを避ける対策が重要ですね。

 「財産を残す側、相続する側、どちらにもできることはあります。相続トラブルの一番問題となりやすい点は、残す側(被相続人)の意思が確認できなくなることです。トラブルを生じさせないためにも、財産を残す側は自分の希望を記載した遺言書を作成することをお勧めします。年々増加する相続トラブルを防止するため、ここ数年で遺言書に関しての制度がいくつか刷新されています。例えば、令和2(2020)年7月10日から、遺言書を法務局に預けて紛失や改ざんを防ぐ「自筆証書遺言書保管制度」がスタートしました。また、平成30(2018)年の民法改正により、平成31年1月13日以降、自筆証書遺言の財産目録は遺言作成者本人の手書きで作成する必要がなくなりました。

 そして、相続する側(相続人)としては、まずお金よりも、話がしやすい不動産に関して、ざっくりと意思確認をしておくのがいいかもしれません。土地や建物を残したいのかどうか、というレベルの話で十分です。大きな方向性が決まっているだけでも、後のトラブルは小さくできます。

 また、調停などでもめやすいのが寄与分です。今回の貴子さんの場合も、父親の介護を続けてきた次女が、寄与分を主張する可能性があります。寄与分とは、相続財産の維持・増加に貢献したと見なされる行為を行った相続人が、自らが貢献した分を通常の相続分にプラスして受け取れる遺産のことです。

事前にできる対策としては、例えば、親の介護が必要になった場合、介護を請け負ってくれる人にあらかじめ合意した手間賃を支払っておくことも一つの方法です。そうすれば、相続の際に寄与分の主張をされるのを防ぐことができます」

 後日、貴子さんに古藤弁護士からのアドバイスを伝えた。すると、今度は自身の遺産についても悩みがあると言う。自身の経験を踏まえ、相続トラブルの芽は早いうちに摘み取る必要性を感じたようだ。

 (デイリースポーツ特約・遠藤きほ)

 ◇弁護士法人・響 古藤由佳弁護士

「難しい法律の世界をやさしく、わかりやすく」をモットーに、相続や借金・交通事故・消費者トラブル・離婚・労働問題など民事案件を主に扱う。FM NACK5『島田秀平と古藤由佳のこんな法律知っ手相』にレギュラー出演するほか、ニュース・情報番組などテレビ・新聞・雑誌等メディア出演も多数。

弁護士法人・響 公式HP:https://hibiki-law.or.jp/

『こんな法律知っ手相』HP:https://hibiki-law-radio.com/

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