なかなか手が出ない遺言書 まずは知人の連絡先、仏壇やお墓の希望を書くことから始めてみては

 生きているうちの準備が大切だとはわかっていても…の遺言書※写真はイメージです(琢也栂/stock.adobe.com)
 葉山有美さん
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 ある日突然届いた連絡。幼い頃両親が離婚し、長らく音信不通だった父が孤独死を遂げたことを知らされた40代のOさん。母は既に亡くなっており、相続について何から手をつけたら良いのか頭を抱えた。司法書士に相談したところ、父親は借金を抱えていたことが判明した。Oさんは父親の唯一の相続人。親の借金の保証人や連帯保証人でなければ、子どもが親の借金を返済する義務はないと知り、一安心した。しかし、父が遺した資産価値のない住居の相続については複雑な問題が生じる。父の両親は既に他界しており、父の兄弟もまた亡くなっているため、相続放棄をすれば、次の相続者である甥や姪に迷惑をかけることになる。Oさんは精神的な苦痛に苛まれつつも、専門家の助言を得ながら複雑な問題の解決に取り組んでいる。

 「相続は親族全員を巻き込む大仕事です。この場合、相続を知った日から3カ月以内に家庭裁判所に「相続放棄」または「限定承認」の申し立てをする必要があります」と語るのは、有限会社 ウェルスマネージメントの代表取締役で相続コンサルタントの葉山有美さん。

 -「相続放棄」と「限定承認」について、それぞれ教えてください。

 葉山:「相続放棄」を選択すると、資産も負債も受け取らず、相続人としての権利と義務を完全に放棄することになります。一方で、「限定承認」とは、相続人が相続財産の範囲内でのみ負債を支払う制度です。具体的には、相続財産の総額から負債を差し引き、プラスの財産が残る場合に限り、遺産を受け取ることが出来ます。ただ、「限定承認」の手続きは煩雑で、他に相続人がいる場合であれば、全員の同意が必要となります。

 -相続を円滑に進めるために、何かアドバイスがあればお願いします

 葉山:一般的に、相続は「経済面での対策」と「感情面の対策」の両方を考慮して生前対策を行うと安心です。遺産分割を巡るトラブルを回避するためには、遺言書が有効です。遺言書がない場合、被相続人の死後に相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。この協議に基づき、金融資産の解約や不動産の相続登記などが行われます。遺言書は感情的な負担を軽減したり、経済面でのトラブルを防ぐためにも非常に有益です。

-遺言書について詳しく教えてください

 葉山:遺言書には一般的に、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の二つがあります。「自筆証書遺言」は本人がすべて自筆で作成し、日付と署名(押印)を行うものです。費用がかからない一方で、形式に不備があると無効とされることがあり、家庭裁判所での検認手続きが必要です。令和2年から法務局で「自筆証書遺言書保管制度」が導入され、申請料3900円で検認手続きが不要となりました。ただ、遺言の内容について、争族を回避できるものであるか、財産の特定方法に問題はないかなど確認し、確実に遺言執行が行える文言にしておくことが重要です。「公正証書遺言」は、法の専門家である公証人と、2名の証人の前で作成される遺言書です。公文書として強力な効力を持ち、遺言内容が確実に反映されます。「自筆証書遺言」とは異なり、費用がかかりますが、最も安全です。本人の希望や意思が反映され、遺言内容が明確ですから、相続手続きもスムーズに進むと思います。

 -生きているうちに準備しておくことが大切だとは分かっているのですが、作業が複雑そうで面倒に感じ、つい後回しになってしまいます。

 葉山:相続はある日突然発生します。「悔いなく人生の幕を下ろすために、今できる最善を尽くしましょう」というのが、私たちが推奨する「ゆいごん白書」のエンディングメッセージです。最近では、スマートフォンやパソコンなど、多くのものがパスワードで保護されています。定額支払いのアプリやネットバンキングなど、デジタル遺品の問題を抱えている方も多くいます。大切なペットや葬儀、仏壇やお墓に関する希望を記すことから始めてみてはいかがでしょうか。親族や知人の連絡先、家賃、月極駐車場、水道光熱費、通信費、スポーツジムのサービス等、「ゆいごん白書」に整理し記録しておくことで、死後の料金発生を防ぐことが出来ます。「公正証書遺言」と一緒に「ゆいごん白書」を保管しておくと、遺言執行者が円滑に手続きを進めるための重要な情報源となります。最近では、死後の事務手続きを第三者に委任する「死後事務委任」を兼ねた遺言も重要視されていますが、死後の事務手続きは多岐にわたるため、専門家に相談することをお勧めします。

 2024年4月、法務省は法制審議会の部会で、デジタル遺言解禁に向けた議論を開始した。自筆の手間を省き、遺言書の活用を促進することで家族間のトラブルを防ぐことが狙いという。パソコンでの作成や録音・録画が可能になることで、遺言書がより身近なものとなるだろう。

 生きているうちはあまり話題に上がらない「遺言・相続」。しかし、人生の終わりは予測不能に訪れるもの。大切な家族を思いながら、まずは自分のデジタル資産や情報を整理していくと、膨大な数の登録があることに気づく。サブスクリプションサービスなど、使用していないものがあれば、今のうちに見直しておくのがおすすめ。

(デイリースポーツ特約・せと麻紗子)

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