松村雄基(後編)ホントに優しい清廉潔白な男
僕が松村雄基さんと同じ舞台に出ていた時の話です。
舞台のメイクは、自分でやらなきゃいけないんです。スポンジでドーランを塗って。松村さんとは同じ部屋で、「スポンジって、洗って使うって知ってました?一週間以上たつのに、全然洗ってないでしょ。ダメですよ、そういう手抜きは」って怒られて、説教される仲です。
ある時、舞台で叫ぶシーンが多くて、セリフが飛んだ時にどうしようかな、と思って、松村さんに「お前、セリフ全部覚えてるよな。飛んだ時は頼むな」って言ったら、彼は「心配しないで、任せてください」って請け負ってくれました。
ある日、相手は板尾創路さんで、僕は「ワーッ」って叫んで、その後のセリフがパーッと飛んじゃって。「松村さんがいる!」と思ってパッと見たら、松村さん、笑ってるんですよ!僕は客席に背中を向けて「お前、約束したろ!」って。彼も、距離が離れていて教えに来られないんですよ。
何とかつなげて乗り切って、でも自分のせいですからね。隣の部屋に行って「セリフ教えてくれるって言ったのに」って言うと、松村さんは「山下さん、そういう他力本願がそういうミスを犯すんですよ!」って。
僕が「俺って一番年上なのに情けない。そうだよな、頼りにしちゃいけないよな。でもあいつが大丈夫って言ったのに…」って落ち込んでたら、松村さんが後ろから肩を抱いて「そんなに落ち込まなくても大丈夫ですよ」って。「この人、ホントに優しいな」って、救われました。ホントに人間的に優しいというか。
松村さんが僕のNGを笑っていたのは、彼が舞台慣れしていたから、誰にでもあることだってわかっていたからなんですね。こちらは「まずい」とものすごく焦ったけど、彼はすごく励ましてくれて、「すごく優しいな」と。松村さんには、清廉潔白という言葉がぴったりなんです。