勝新太郎編(上) 座頭市と競馬新聞

 名優・勝新太郎さん=とのエピソードを2回に分けて語ります。勝さん主演で数々の監督作もあるテレビ版「座頭市」シリーズ(勝プロ制作、フジテレビ系)のうち、私は「新・座頭市」第1シリーズ第28話「上州わらべ唄」(1977年4月18日放送)に出させて頂きました。予算と時間を掛けたフィルム撮影。映画と遜色のない作品です。

 女優の太地喜和子さんから「勝さんって楽しい人よ。絶対やりなさいよ」と聞かされ、楽しみにして京都の現場に向かいました。

 でも撮影所に勝さんが来ないんですよ。やっと昼過ぎにふらっと来られた。それまでの時間、私たちで芝居の動きをつけているのに、勝さんが来たら全部変わっちゃうんですよ。その回の監督は勝さんではなかったんですけど、勝さんがやって来ると、勝さんの指示が全てなんですよ。

 そんな“勝新現場”を事前に聞いてなかった私は「もう、やだっ!」って怒り出したの。「何のために監督がいるんですか!?」って。午前中に監督とやってきた芝居の動きが全部ボツになってしまう。勝さんは「それじゃつまんないんだよ!」って。例えば、2人舟に乗っているシーンで、座頭市に扮してる勝さんに向かって私が懸命にセリフをしゃべっていても、映っていない勝さんは競馬新聞を読んでるんですよ。

 私、なんだか腹が立ちましてね。「あんな勝さん、やだ!」って自分の控室に戻ってワーワー泣き出したの。その時、俳優の草野大悟さんが「どうした洋子ちゃん!?」ってドンドン部屋をノック。

 「だって勝さんが来ると全部話が違っちゃって、私、何やったらいいか分かんないんだもん。もう、勝さんとはやりたくない。帰るっ!」。私もわがままだったんですよ。

 草野さんは勝さんのお仲間で、私にとってはNHKの朝ドラ「北の家族」の先生役。その先輩から「洋子な、勝さんはそういう演出だから。勝プロはそういうとこなの。そこで帰っちゃダメだよ」と説得され、慰められ、私も顔を直してシーンを続行。4~5日で撮影は終わりました。

 当時23歳。若い時の私は生真面目で、真っすぐだったんですね。今の私だったら、競馬新聞を読んでいても絶対に怒らないですよ。逆に「明日の皐月賞、何にします?」とか聞いて、意気投合したと思います。競馬大好きですから(笑)。

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