43歳・後閑信一、競輪界のレジェンド
ソチ五輪のスキージャンプ個人ラージヒルで銀メダルを獲得した葛西紀明(41)は“レジェンド”の異名を持つが、競輪界にも“レジェンド”がいる。その男の名は後閑信一(43)=東京・65期・SS。昨年9月、43歳で7年ぶりのG1覇者に返り咲いた。年齢を重ねてなお燃え上がる情熱。尽きない探求心。ベテランの素顔に迫る。
なぜ、年齢を重ねてトップレベルで通用するのか‐。後閑は競輪ファンなら誰もが知る人気選手。90年にデビューして現役生活24年。今年5月に44歳を迎えるベテランだが、競輪界でトップの9人だけに与えられるS級S班に在籍。若い選手と互角以上に渡り合う“レジェンド”だ。「体力の衰えは多少ある」と明かすが「若いころよりも総合力は、いまの方が上」と断言する。
確かに年齢とともに脚力は落ちる。しかし、競輪は自転車。使いこなせば勝負できる。「ペダルの踏み方を極めれば、若い選手に負けない」と後閑は話す。ポイントは力任せに踏むことが、逆に効率の悪さを生むと知ること。ド迫力の風貌からは想像しづらいが、ペダリング技術は緻密。その技術は落車による骨折など、多くのケガを乗り越えて培われたベテランの強みだ。「ケガをしたときは違うペダリング、体の使い方を試すチャンス。だから、自分はケガすると“ラッキー”と思う。若い選手はケガして『ツイてない』と言うけど、そうじゃない」。考え方次第で、ケガをする前よりも強くなれることを知っている。
昨年9月、京王閣競輪場で開催されたG1・オールスターを優勝した。40歳を超えて06年のG1・寛仁親王牌以来、7年ぶりのビッグタイトル返り咲き。しかも、ほかの選手をマークする追い込み型から、自分で風を切る自力型に戻って戴冠。年齢を重ねて自力型に戻ること自体が異例だが、G1優勝まで果たしたことは大偉業だ。「若いうちに早くから追い込み型に変わったから、先行選手として、まだやり残したことがあると思って自力型に戻った。競輪で全部やり尽くしたい」。飽くなき探求心が進化を続けるモチベーションになっている。
練習は新しい発想の連続。過去にはボクシングなどを習ったこともある。「スポーツは共通した動作が多い。3月からはトランポリンを取り入れている」とユニークだ。「練習法は何千ものアイデアの糸をたぐり寄せて一つにするようなもの。同じ練習法だけでは筋肉が慣れてしまうから、常に新しいことをする」と試行錯誤すること自体を楽しむ。年齢を重ねることはマイナスではない。競輪界の“レジェンド”はベテランだからこそ、いまトップレベルに君臨している。