【ダービー】橋口師オンリーで悲願成就

 「日本ダービー・G1」(6月1日、東京)

 2着4回、3着1回‐関西のトップトレーナーとして知られる橋口弘次郎調教師(68)=栗東=は競馬の祭典に現役調教師として最多となる19頭を送り出しながら、まだ“ダービートレーナー”の栄誉を手にしていない。定年まで残されたチャンスは、今年を含めてあと2回。自らが管理した04年2着馬ハーツクライを父に持つワンアンドオンリーで挑む大一番を前に、思いを語った。

  ◇  ◇

 ◆残されたチャンスはわずかとなった橋口師に、大チャンスが巡ってきた。先週のオークスで産駒のヌーヴォレコルトが栄冠を手にしたハーツクライを父に持つワンアンドオンリーは、皐月賞で4着。だが、メンバー最速の上がりを繰り出し、ゴール前で勢い良く追い込んだ走りは、直線の長い東京で行われる大一番へ大きな期待を抱かせるものだった。

 ‐皐月賞を振り返ってください。

 「3コーナー手前から仕掛け気味に上がって行った。ああいう追い方だと並の馬なら直線で止まるが、ゴールまでしっかりと伸びていた。長くいい脚を使う。負けはしたが、ダービーに向けて視界良好という競馬だった」

 ‐父のハーツクライでも04年のダービーに挑戦しました。

 「あの時は(2着でも)うれしかった。悔しさはなかったよ。当時のハーツは非力で素質だけで走っていたから。ワンアンドオンリーは全体的な感じは父と似ている。同じような流星(顔の白い部分)をしているし、目もよく似ている。ただ、今の時期の完成度はこっちの方が上だね」

 ‐鞍上はハーツのダービーと同じく“ノリ”こと横山典です。

 「彼はひと言で言えば勝負師。そういうにおいがする。関東のコースは知り尽くしている。ノリならではっていう騎乗もあるしね。安心して任せられるジョッキー。ノリとはG1で2着が7回だっけ(※表上)。そういう意味でお互いに気持ちが分かる部分もあるね」

 ‐96年ダンスインザダーク、09年リーチザクラウン、10年ローズキングダムも2着。

 「本当の意味で悔しい2着はダンスインザダークだけ。(1番人気でもあり)どんな勝ち方をするかな?という思いしかなかった。まだ自分自身、ダービーの怖さを知らなかったから、レースまでも平然としたものだった。今だったらいろいろなことを心配していたやろうけどね」

 ‐定年まであと2年で、大きなチャンスが巡ってきました。

 「今年もダービーに管理馬を出せるという喜びが大きいよ。しかも2、3番人気になろうかという有力馬で、だから。調教師冥利(みょうり)に尽きるね」

 ‐ワンアンドオンリーは、デビュー前から期待は大きかったのでしょうか。

 「前田社長(※1)と“来年は一緒にダービーを獲ろう”と話をして、男馬を4頭預かった。この馬を含めてハーツクライ産駒を3頭預かったけど、みんな横一線だったね」

 ‐新馬戦は12着。初Vは3戦目でした。

 「初戦は馬っ気にイレ込みで両脚を蹴り上げたりして、競馬どころじゃなかった。でも未勝利戦を勝った時に“ひょっとしたらひょっとするぞ”と思ったね。混戦を抜け出して、根性があるな、と。セールスポイントは確実な差し脚。近走は特に目を引くな」

 ‐ラジオNIKKEI杯2歳Sで重賞初V。

 「勝った瞬間“ダービー”の文字が頭に浮かんだ。あの勝利は大きかったね。賞金を心配することなく逆算してローテが組めた」

 ‐3歳初戦の弥生賞までは厩舎に置いたままの調整を選びました。

 「放牧に出すとしても1カ月程度。それだったら手元に置いている方が安心だし、何か妙にそういう気持ちなったんだよな。そのへんもこの馬に対する俺の期待の表れやね」

 (続けて)

 「あの3カ月半は大きかった。肩、腰、お尻とかつくべき部分に筋肉がついた。弥生賞の馬体重が示す通りだよ。輸送しての10キロ増だから。パドックでたくましくなったなと思った。あの2着も負けて強しだったしね」

 ‐ダービーには計19頭で17度の挑戦。ここまで熱くなる理由は。

 「小さいころ、家が競走馬の生産をしていた。テレビがない時代でね。大きなレースになるとラジオにかじりついた。映画を見に行けばニュースでやったりして、スクリーンでダービーを見たこともある。憧れたね」

 (続けて)

 「けど、本当の意味でダービー、と強く思うようになったのは、調教師になって4年目でセントシーザー(※2)をニュージーランドTを使いに行った時かな。3勝していてダービーに出られる状況だったが、血統的にスプリンターだったから、使わなかったんだよ。あのころは翌日にダービーがあってね。当日は競馬を使っていなかったけど“せっかくだから見て帰ろう”と、もう1泊したんだ」

 ‐実際にレースを見て。

 「“しまった”と思ったね。今まで味わったことのない雰囲気があって、ここに参加するのはどんな気持ちなんだろうって。みんな誇らしげなんだよな。初めて出走させた時は感慨深かった。毎年、ダービーが終わると“来年はもっと強い馬を連れて来るぞ”と決意を新たにするレースでもあるんだ」

 ‐最後に改めて意気込みを。

 「今は馬の状態をベストに仕上げることしか考えていない。ハーツクライの子で勝てたらドラマやね。定年まであと2年で、こうして巡ってきたチャンスがハーツの子っていうのも何かの縁かな」

 ※1 (株)ノースヒルズ代表の前田幸治氏

 ※2 84年デビュー。通算37戦8勝(うち重賞2勝)

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