社台G3代目のお値打ち良血馬戦略
競馬界の社台グループといえば、ファンなら誰もが知る巨大組織。創業者の故・吉田善哉氏から歴史は始まり、息子の照哉氏、勝己氏、晴哉氏が勢力を拡大。それぞれ社台ファーム、ノーザンファーム、追分ファームを立ち上げ、同グループ内で競争意識を高めながら揺るぎない地位を確立した。
現在、社台グループでは世代交代が進み、“3代目”に主導権を渡しつつある。3代目では俊介氏(父・勝己氏)が07年から(有)サンデーレーシングの代表を務めているが、今年6月からは他の社台系の一口クラブ2つも世代交代を決断。(有)社台レースホースは哲哉氏(父・照哉氏)、(株)G1レーシングは正志氏(父・晴哉氏)が新代表に就任した。果たして若い力がどのように各クラブを伸ばしていくのか、実に興味深い。
中でも記者が注目するのは正志氏。どこかエリート色が感じられる社台グループにおいて、独特の雰囲気を醸し出している。3代目では最年少の34歳。慶應義塾大学を卒業後はアメリカの牧場で生産を学び、現在は追分ファームのマネージャーとしてらつ腕を振るっている。「生産牧場だけでなく、調教施設も整った総合牧場が欲しかった」と11年には追分ファームリリーバレーを設立。数十億円を惜しみなくつぎ込み、国内トップレベルの調教施設を完成させた。その情熱と決断力にはただただ驚かされるばかりだ。
その正志氏が代表となった(株)G1レーシング。1歳馬の募集を行う愛馬会法人の(株)G1サラブレッドクラブ(代表・晴哉氏)は、歴史の浅い一口クラブだ。「10年から募集を開始して、最初の3年は20頭のみ。そこから徐々に増やして、今年(6月に1歳馬を募集開始)は48頭です。ディープインパクト産駒、ステイゴールド産駒が7頭ずつ。全体の頭数から考えれば、割合はかなりのものです。もちろん他の募集馬についても、種牡馬のレベルは相当高いですよ。話題を集める意味でも、今年はディープの子をはじめ、通常より安く設定しています」と正志氏は就任1年目を記念して“特別価格”でクラブの名を広めていくという、思い切りの良さを早速披露している。
なるほど、確かにラインアップを見ると上質な血統馬がお手頃価格(1頭の口数は全馬40口)で提供されている。「牡馬のディープで4000万円は破格。本来なら最低でも5~6000万円なんだけど」と語るマンティスハントの14(栗東・浅見秀一厩舎)。ディープ産駒以外でも「雰囲気が別格。1歳世代はキングカメハメハ産駒が全体的に少ないので希少価値もある。今までで一番の出来だけど、去年より買いやすく7000万円にした」と素材を絶賛するレジネッタの14(牡、美浦・藤沢和雄厩舎)など、大舞台を意識できる1歳馬がズラリと並ぶ。
今年はタンタアレグリアが所属馬として初のダービー出走(7着)を成し遂げた。無論、その下にあたるディープ産駒のタンタスエルテの14(牝、栗東・藤原英昭厩舎)も4000万円で募集馬に名を連ねている。また先日引退、種牡馬入りを発表した天皇賞2勝馬フェノーメノの全妹ディラローシェの14(美浦・戸田博文厩舎)も3000万円というお買い得感満載の設定だ。「まだ歴史の浅いクラブなので、人気馬でも買いやすい状況。クラブの名に恥じないよう、G1レースにどんどん出走させたいですね」と正志氏は新たなチャレンジに目を輝かせる。
(株)G1サラブレッドクラブ募集馬の中核を担う追分ファームは95年に開場し、今年でちょうど20年。古くからの流れをくんできた社台、ノーザンとは違い、1から牧場を作り上げてきた。グループの中では後発だが、逆にそれが見方によっては強みにもなるというのだから頼もしい。「新しい牧場だからこそ、攻めの気持ちで色んなことに挑戦できると思うんです」。ハングリー精神旺盛な正志氏がどのようなかじ取りを見せるのか。今後に注目だ。(デイリースポーツ・豊島俊介)