【ボート】尼崎の大人気ボート飯が44年の歴史に幕 丸久食堂お好み焼き部が3月いっぱいで店じまい
尼崎のボートレースファンの舌をうならせてきた、あのお好み焼きが3月25日をもって44年の歴史にピリオドを打つことになった。店頭に立ってきた井上義尋さん(73)と焼き場担当の那須アツ子さん(77)も引退を決意。「丸久食堂」のお好み焼き部は年度ラストのシリーズ「尼崎城サクラ満開杯」(20~25日、尼崎)とともに営業を終える。
ボートレース尼崎の正門からスタンド正面入り口を入った右手にある「丸久食堂」。食堂カウンターや焼きそば台が並ぶ一角に、お好み焼き台がある。ソースの香り漂うなか、両手に焼きコテを持った那須さんが何枚ものお好み焼きを同時に焼き上げ、井上さんがお客さんの注文を受けて商品とお釣りを渡す。
秘伝の味が詰まったお好み焼きはファンが多い。こっそりとレシピを聞くと粉を溶くだし汁には、かつお節や貝柱などが入っていて、さらにすった山芋も。これをキャベツのざく切りに絡ませて焼き、最後は生卵をひとつ割ってその上に丸く焼き上げたお好み焼きをポンと乗せて完成。あとはお好みで青のり、かつお、紅ショウガ、マヨネーズなどをかける。
これでお値段わずか300円。井上さんは「44年もやってきたからね。利益は度外視。のべで100万人ぐらい食べてもらったから、恩返しです」と穏やかな笑みを浮かべた。話を聞いている最中もひっきりなしに2人のファンがお好み焼きを買っていき、改めてその人気のほどを感じた。
それでも営業を終えるのは自身の体調や家族のことなどを考慮した結果。那須さんは「最初のころは3人で焼いていたんだけど気づけば私1人。私ももう77歳だしね、娘にも迷惑かけられないわ」と湿っぽさを感じさせずに、キュートな笑みを浮かべながら“引退”を明かした。
記者にとっても思い出は尽きない。なじみの顔を見れば「はい、電話代」と十円玉2枚をサービス。その昔、記者が戸惑っていると、那須さんが「昔は10円玉で電話できたでしょ」と説明してくれた。
昨年まで本紙デイリースポーツでボートレースコラムを連載していただいた俳優の六角精児さんは、来場した際にこのお好み焼きに「いやー、おいしい」と2枚目にもはしをのばしてニンマリ。太鼓腹をさすりながら満足そうに目を細めていたっけ。
この絶妙な味や焼き加減は伝承されないのか?井上さんは「このお好み焼きをやりたい人がいればレシピを教えてもいいんだけどね」と言い、現状はその予定がないらしい。那須さんも25日をもって長年持ち続けてきたコテを置くことになる。
ボートレースファンが44年間愛してきた“ボート飯”。味わえるのは3月20日から25日までの6日間が最後になる。