【ボート】児島キングカップ 子犬系男子・松田祐季Vの舞台裏

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 G1・児島キングカップ 開設70周年記念競走は21日、松田祐季(36)=福井・98期・A1=の優勝で幕を閉じた。総勢20人のSGタイトルホルダーが出場。年末のグランプリを見据え賞金の上積みを狙ったトップレーサーと、70周年の節目となる地元G1に挑んだ岡山勢が激突しシリーズは大激戦。

 優勝戦は15年9月尼崎ヤングダービー以来、2度目のG1制覇を目指す松田VS石野貴之(大阪)、菊地孝平(静岡)、桐生順平(埼玉)のSG覇者。最後まで気の抜けない戦いを制したのは、ゆるふわキャラ、子犬系男子の松田だった。

 今大会はコロナ禍で休止されていた選手紹介式、優勝者表彰式を実施。イベントホールに入場できるのは先着97人で、座席に間隔を空けて整理券を配布した上で、入場前に検査と消毒が行われた。初日の入場者は4000人超。久しぶりにスタンドを埋め尽くすファンの声援と熱気に沸いたシリーズだった。

 児島周年の表彰式は一昨年の菊地も、昨年の佐藤翼(埼玉)も関係者だけが集められた室内で進行。優勝者の映像はテレビ中継やネットで配信され、我々スポーツ新聞記者は会場の後方に待機。プレス撮影の瞬間だけ選手に近づくことができた。

 今年は3年ぶりの公開表彰式。イベントホールの下見をした後、スタンドでファンの方々と一緒に優勝戦を観戦した。女性一人で来たらしき人を目で追っていると、レース本番にその女性が私の横に回り込んで来た。関係者がレース本番に移動して前に立ちふさがったからだ。私の真横にいた女性は「1から4と5やぁ。2と3はいらんゆうたやろ」と叫んだ。私は「巻き舌?」とあまりの迫力にたじろいだ。優勝戦は先頭・松田、2番手・桐生、3番手に松田と同期の是沢孝宏(滋賀)が続く。(1)(4)(5)の順位が確定すると、その女性は突然乙女に変身。「キャ~、松田く~ん。おめでとう~」と言いながら水面近くへ走って行った。ゴールの瞬間も、水上パレードも、スタンドはやんやの喝采。松田人気の高さを肌で感じた。

 そして迎えた3年ぶりのG1表彰式。松田は鮮やかなグリーンのシャツでステージに登場した。賞状、優勝カップ、優勝賞金1000万円の小切手が授与され、来賓と写真撮影。松田の一つ一つの動作がカワイイ。インタビューが行われ、最後がプレス撮影だ。ステージ下に待機していた我々記者はどやどやと壇上へ移動。あれやこれやと注文を付けてバチバチ撮影。松田はニコニコ笑顔で応えてくれる。やっぱりカワイイ。優勝旗と松田のシャツが同じ緑色で、とても映える。と、その時、私の中である衝動が突き上げた。直接話を聞きたい!イベントを仕切っているなじみの男性の顔を直視すると「このまま奥へ」とうなずいた。「ヨッシャ!」と私が向かえば他の記者もどやどや着いてくる。向かったバックヤードは来賓の方々が退室し、ある程度の取材エリアは確保できた。その流れを把握していたからこそ、関係者はとっさに誘導してくれたのだ。

 私は主催者から依頼されたサインをしていた松田に近づいて聞いた。「お急ぎですか?」。先輩を待たせている松田が心配だったのだ。松田はニッコリ笑って答えた。「いいえ。孝平さんが、ゆっくりでいいと言ってくださいましたから」。さすが、大舞台を何度も経験した中島孝平だ。後輩の儀式にたっぷりの時間を用意していた。

 そして始まった久々の囲み取材。記者は自分の書きたい原稿の肝となる質問をぶつける。ある記者は「これでジャックナイフになれるな」と振り、松田は「カッターナイフくらいにはなれましたかね」と返す。私が近況絶好調の要因を聞くと「何も変えてないんですけどね。ペラのゲージも今までと同じだし。でも、今期は本当に流れがいい。勢いだけはありますね」とサラリ。

 松田と言えば長い髪のイメージだが、今はショート。「髪を切ったからとか?」と私が振り、「それはないですね」とニコリ。「ショートも似合うって言われるんで、また髪を伸ばそうかなと思ってます」。「あまのじゃくですね」とやりとりしていると、話を脱線させた私にしびれを切らした後ろの記者が「話を戻しますけど、賞金の上積みでチャレンジカップの出場圏内。開催地の鳴門の相性は?」とまっとうな質問をして軌道修正。松田は「得意ではないけど今年はいいイメージで走れている。ここまで来たら孝平さんと一緒に行きたい」とハニカミ笑顔。「どこにですか」と追い込む記者に松田は一瞬戸惑った。だから私が言った。「年末のアレですか?」すると松田は「はい、年末のアレです」と助かったぁという笑顔。記者も皆「年末のアレね。はいはい」と納得。アレはあえて言葉にしない大事なもの。ここではグランプリだ。個々の記者が思う存分質問し、一つ一つに丁寧に答える松田。これもコロナ禍でなかった光景だ。

 質問が出尽くすまで取材に応じた松田は最後に「ありがとうございました」とペコリ。ああ、しぐさも声もカワイイ。子犬系男子・松田の魅力全開だ。松田がどんなにカワイイにあらがおうと、女性側にはそこが魅力。取材後は、私だけでなくベテラン男性記者もほんわかムードで「何か、いい優勝やったな」とポツリ。フワッとした松田の雰囲気に包まれ、私も疲れが吹き飛んでいた。例年、G1後はボロボロに疲れ、浴びるように酒を飲むのだが、何と今回買って帰ったのは3個のプリンで酒はナシ。松田の舟券を当てたあの女性も、きっとフワッとした気持ちで喜びに浸っているだろう。松田祐季とはそんな人。誰もを癒やしてくれる『子犬系男子』だ。これが、紙面では伝えきれなかった松田祐季・G1Vの舞台裏。(児島ボート担当・野白由貴子)

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