【ボート】50歳の田中信一郎 これは復活ではなく進化!「のびしろしかないわ」
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23年の児島ボートはドラマチックな優勝が続く。新エンジン1節目のデイリースポーツ杯は田中信一郎(50)が通算93回目のV。1月末には中村日向(24)が21回目の優出で初優勝。続く四国地区選で登録番号5000番台初のG1制覇を成し遂げた。2月の中国地区選では地元の茅原悠紀(35)が児島のG1初優勝。通算9回目のG1Vとなるが、「地元での優勝は重みが違う」と喜びを噛みしめていた。茅原が優勝した翌日、近畿地区選手権の優勝戦で田中信一郎は2着。名前を挙げた3者は3月のSG・ボートレースクラシック(16~21日・平和島)にそろって出場。中村はSG初出場、茅原は地区選Vで最後の最後で出場権を勝ち取った。新エンジンの児島で優勝した田中は、直後の若松周年で茅原に児島の情報を伝授。そして、「地区選で優勝してクラシックに来い。おいしいコーヒーを入れてくれよ」とエールを贈っていた。
田中は昨年9月のG2・児島MB大賞で優勝。16年2月住之江周年以来となる特別レースVで出場権を獲得し、クラシック出場は実に5年ぶりとなる。グランプリV3など、輝かしい実績を誇る田中の代名詞は、『美しいターン』。6号艇でグランプリを制したように、どのコースからでもターン勝負できることが魅力だ。勝負に対する厳しさでも有名で、私も取材時はガチガチに緊張する。だが、厳しい中にも優しさがある田中の言葉に救われ、前を向く勇気をもらってきた。田中は、若手時代に取材を受けた記者を決して忘れない、とよく聞く。私は実況アナウンサー時代に、若手だった田中と出会っている。いろいろあって記者に転身した私を、田中はちゃんと覚えていた。住之江担当だった20年前、「自分など終わった人間だ」とうつむいていた私に田中は言った。「もうインタビューやらへんの?若いやつに教えたったらええのに」と。当時の私にはあり得ないこと。そんな機会は一生ないと思いつつ、私の心の奥底に「もう一度」という気持ちが芽生えていた。
私は現在、児島駐在記者として、前任者の森田記者から引き継ぎ優勝戦出場者インタビューなどを行っている。田中の言葉がなければ、もう一度チャレンジする気持ちにはなれなかった。私を含め、田中の言葉に導かれた人間は大勢いる。
新エンジンの児島で今年初Vを飾った田中は、表彰式で「50歳を迎えたので、マイペースにのんびり走ります」と穏やかな笑顔を見せた。それも一つだと思うが、私は前検日に聞いた言葉が本心だと感じた。私が田中に「年齢を言い訳にせず、今年は自分が本当にやりたいことにチャレンジしたい」と告げると「そうや、俺らには、もうのびしろしかないわ」と力強い言葉が返ってきた。私は毎日、Creepy Nutsの『のびしろ』を聴いてテンションを上げる。歌詞は引用できないが、田中の生き方にピッタリなのだ。歌詞には◯◯の仕方がちりばめられている。それを知った上で、身につけていきたいことが山のようにあると歌っている。レースの仕方、調整の仕方、後輩との接し方、マスコミとの向き合い方、距離の取り方、慕われ方、嫌われ方、いい年の取り方…。まさに今の田中の姿だ。復活ではなく、50歳の田中信一郎は進化している。もう、のびしろしかないわ。(児島ボート担当・野白由貴子)