【競輪】脱退問題…誰も得しなかった
3月12日、日本競輪選手会理事会で決定した「SS11」による選手会脱退問題は、非常に厳しい処分を課すことで約3カ月に渡る一連の騒動にピリオドを打った。
昨年12月19日「東京五輪に向けた新たな選手会発足」と銘打って、トップレーサー18人(当初)が離脱を宣言。彼らの主張は(1)共済金制度の破たん(2)五輪など国際大会に向けた選手育成、主にこの2点に対する不満から立ち上がったとみていい。
(1)はどういうことか。選手は1走するごとに1万5000円を選手会に収める。このうちの7500円が退職金として積み立てられ、残りが年金などの共済金となる。しかし、年金は2010年にすでに支給が止まり、退職金も17年まで約20%削減する方向で決まっている。その制度は事実上破たんしているという声は多い。
(2)に関しては発足会見の通りで、彼らは「世界に通用する選手育成に関して制度、環境が整っていない」という危機感を抱いている。
実は(1)も(2)も、彼らに限らず約2660人の競輪選手全員が感じているいる不安であり、選手会のみならず、業界全体が売り上げの低迷とともに課題にしているポイントである。
しかし、政治力を要するこんな大きな問題を「SS11」の面々は連日膝を突き合わせ、口角泡を飛ばす勢いで議論し尽くしたのだろうか。彼らは出身地区も違えば、あっせんも必ず同じとは限らない。ましては全員がトップレーサーである。日々の練習は欠かすことができないはずで、体調管理も並みのレーサー以上に気を遣っているはず。また、プロ野球選手と違い、競輪選手にはシーズンオフがなく、365日毎日がペナントレースだ。
となると、彼らを扇動した“影の支援者”がいたとしか思えないが、結果的にその“影の支援者”はなんと見込みが甘かったことか。
JKAもこの発足に関して「新団体の選手のレース出走に支障はない」と発表したが、これも実情とは異なってしまった。
競輪は地区ごとにラインを形成して戦うが「同じ地区でも、SS11とはラインを組めない」と反発する選手も出てきた。そして実際に同地区でも“別線”になったケースが出ている。これでは競輪のレース形態を根本から覆すことになり、車券を購入するファンを混乱させることになった。
また、SS11の選手は落車などの事故に伴う共済会の保障がない。そのため同乗する選手のなかには「全力で競走することができない」と不安視する声も出た。また賞金制度が異なる事態も発生しかねず、その2重構造は同じバンク内でレースを進める選手たちも戸惑わせることになった。
発足会見から6日後の12月25日、日本競輪選手会理事長・佐久間重光は全会員(選手)にこう所感を表明している。
「(中略)まず、本会の制度として退会を希望する者は支部長を経由して退会届を本会(本部)に提出しなければなりません。今回の一部会員は、それを怠っています。私は、退会届を受理しません。もう一つ重要な事、それは会員である期間に本会制裁規定に抵触する行為がある場合には、仮に正式な退会届が提出されたとしても制裁の対象になります。(中略)今回の件は相手側が何と言おうと、私たちは受けて起つ覚悟です。本会と本会会員を守る為、断固として戦います。2660余名の力は大きな力です。その大きな力を執行部に貸して下さい。いえ、一緒に戦いましょう!」と全面対決の姿勢を貫いた。
考えれば、選手会とは一般企業でいえば労働組合だ。今回の一件は組合内闘争であって、それぞれに本来戦う(交渉する)相手を見間違えた。
今回の処分に関しては非常に重い結果になった。首謀者とされる長塚智広、武田豊樹、村上義弘に関しては5月1日から1年間の自粛休場勧告が出た。新田祐大、平原康多が8カ月で、その他が6カ月である。多くのファンが残念がるとともに、施行者にとっても大きなダメージである。一方で、ある主力選手は「当然の結果。世が世なら切腹ものだし、一般の社会では解雇に相当するもの」との意見もある。
休場勧告ではなく、今年1年間の賞金半額分を自主的に選手会へ預けることとし、社会福祉などに役立てるという方法もあった。それなら、彼らはレースにも出場でき、計算上賞金額は普通に加算されるため、グランプリ出場の権利も保障される。ファンにも施行者にも迷惑をかけなかったはずだ。しかし、こんなことは素人でも気付くアイデアなのだから、すでに議論の俎上にのぼしていたはず。
さまざまな非難は覚悟のうえで選手会は大きな裁決をくだした。終わってみれば、元SS11も、ファンも、施行者を含めた業界全体も、多くの時間と労力を使った選手会も、誰も何の得もしなかったのではないか。それだけに、競輪界の信用をなくす原因をつくった元SS11の各選手はこの処分を重く受け止めてほしい。(デイリースポーツ・坂元昭夫)