山下氏 八戸学院光星・仲井監督対談(1)

 デイリースポーツ評論家の山下智茂氏(71)=星稜総監督=が次世代の高校野球を考える企画。第4弾では、2011年夏から3季連続の甲子園準優勝で注目された八戸学院光星の仲井宗基監督(45)を訪ねた。故郷大阪を遠く離れ、本州最北端の地、青森で強豪校を指導する同監督が特待生、県外、地元からの選手集めの現状などを率直に語った。

  ◇  ◇

 山下氏「ここは練習に集中できる環境だね」

 仲井監督「学校からバス2台で送迎しています。ここは近くに養鶏場などがありまして、暖かい日はにおいやハエが(苦笑)。“田舎の香水”で僕らは慣れているんですが」

 山下氏「僕らがつくってもらった2度目のグラウンドもレフトに養鶏場があってね。まむしがいるからボールを取りに行くなって。それをつかまえてきて焼いて、甲子園に持っていった。夜、生徒がいない間に粉にしていたら、新聞記者が何やっているんですか?って。『まむしパワー星稜』って書かれました(笑)」

 仲井監督「うちは大自然なんで、野ウサギとかも出ます。カブトムシは獲り放題です。うちの娘は小学4年ですが、選手がいっぱい獲ってプレゼントしてくれて大喜びでした」

 -冬場の練習は。

 仲井監督「一昨年12月に大学と併用の室内練習場がようやくできました。それまでは体育館や雪を踏み固めて練習したり。11月上旬から4月頭までは雪です。雪がなくても零下7度とかになるので寒くて外では練習できません」

 -グラウンドは風が強いと。

 仲井監督「春先は(吹き下ろす風が)すごくて、選手たちにゴーグルみたいなのをつけたり。私も目の手術を左右計4回したんです。紫外線と砂埃。結膜がただれてしまって」

 山下氏「職業病ですね」

 -部員数が多い。

 仲井監督「91人おりますので、4つの班に分けて回していくことになります。1年生が38人、2年生が53人います。3年生は48人いて139人でやってました。うちは来る者拒まずで何人になるかわからない。甲子園が部員の数に大きく影響してきます。県外がほとんどで県内は10人くらい。通いは全員寮に入ってます。学校の近所の子たちもいるが、寮に入りたがります」

 -県外からの希望者が多い。

 仲井監督「やはり特待生枠が5人になった後、選手が減りました。その後に3季連続準優勝させていただきましたが(現ロッテ)田村、(現阪神)北條の時には新チームが37人しかいなかったんです」

 -地元からの希望者は?

 仲井監督「これまでは地元は、特待生として声がかかれば初めて認めてもらえたという感じだった。その影響か(特待生枠が5人になった)今は(地元の子は)レギュラーになれないとか、特待生でないと(指導者から)見てもらえないとか、そんな風に考える傾向がある。そんなことないんですが。実際にはレギュラー中4人は一般で来た子。県外からたくさん選手が来ていることが、先入観を与える部分もある。県内の選手を中心にしているとうたっている学校へ流れてしまう。しかも枠が5人しかないので声をかけにくいですね。難しいです、ほんとに」

 -ジレンマがある。

 仲井監督「本来は行きすぎた勧誘を正す狙いがあったと思うが、もともと本校の特待生は行きすぎたものはなかったんです。逆に公立校が(条件によって)授業料無償化になっているので難しいです。でも、おかげさまで何とかこれだけ選手が来てくれてます。ただ、今後どうなるのか、甲子園に行けなくなると(入学希望者が)減ったりするので、不安はあります」

 山下氏「(選手は)ほとんど関西ですか?」

 仲井監督「今は半分くらいが関東ですね。大阪、京都は私立も(条件によって)授業料無償化になっている。うちが『特待生で』と言っても『大阪の学校の方が』となってしまう。大阪から来てくれるのは、ぜひうちでやりたいという子や兄弟でお兄さんがいるなどつながりのある場合が多い。関東の場合は逆で、あちらは授業料が高いがうちは地方なので安いみたいです。それでこれだけ充実した環境がありますので、思う存分野球をやれる」

 -だから関東からが増えた。

 仲井監督「また進路だけはしっかりやろうと思っています。昨日も東京に行って始発で帰ってきたばかり。それ(進路指導に力を入れてくれること)を信じてやってきてくれるので」

 -野球留学校は地元が応援しない風潮が昔はあった。

 仲井監督「いまだにあると思います。私も本音は地元の子たちだけでやりたい。それならもっと地域の方々が喜んでくれると思います。ただ、そこまでいけない。ガラッと方向転換する勇気もなかったりする。(県外も)募集の一貫でもあってなかなか難しいですね。今年も少ない特待生枠を使って(地元へ)行ったけど、断られて…。ただ、今いる子たちは一生懸命やっているんです」

 山下氏「特に田舎は県立志向がありますね」

 仲井監督「絶対には県外の子に勝てないとか。声かけられていないと認められていないとか、そんなうわさが出る。選手は自信がないんですね。レギュラーになれないと。少しずつ(地元生を増やす方へ)方向転換したいとは思っているんですが、特待生5人枠がネックになっているのが正直な本音です。ただガクッとレベルを落とすわけにはいかない。勝ちながら(方向転換する)となると厳しい。でも入ってみれば、よかったと地元の子も親御さんも言ってくれる。レギュラーとかそうじゃないとか関わらず」

 山下氏「選手にも地域性があるでしょ?」

 仲井監督「最初は関西の子が前に出てやるので地元の子が押されてしまう。ただ、最初の一カ月ですね、それを超えていくと、お互いのよさがわかってうまく混じり合う。相乗効果が出てくるのかな」

 山下氏「勝つとなるといろんな血を混ぜないと勝てないと思う。関西と関東が入るのはいいですよね。延長十八回では血液型で(レギュラー編成を)やった。変わったことやらないと勝てないんで、そういうことやってみました。僕は県外選手を取らない、勧誘しないという方針で38年間やったけど、関西から一人来たんですよ。でも、足を引っ張ったりして2年の時にやめていった。せっかく来たのにやめていって僕もショックだった。僕の器がないんだと。それで県外はもう取らないとなった。せっかく来た1人をやめさせてしまったというショックでね」

 仲井監督「今の2年生は全員いますが、1年生は3人やめてしまいました。うち2人はほとんど地元の子。地元の子の方がやめてしまいます。帰る場所があるとどうしても。覚悟がなくなるのかもしれません」

 -育った環境によっても違う。

 仲井監督「うちはほとんど寮生活をしておりクラスも野球部だけの編成です。選手はずっと同じ顔を見ている。大変かもしれないが、意識は同じ方向に向きやすい。まとまりやすい環境ではあると思います。ただ最近は(選抜チームなどでお互いを)中学時代から知っている。すぐに仲良くなりますね。性格的になじめない子たちをいかに一つにしていくかという部分は、クラスも一つでわれわれが担任でつくんで、学校生活をうまく“利用”する。こどもたちの表情を見ながら。共有できる時間が長いんで今のところはうまくいっていると思います」(2に続く)

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