山下智茂氏、箕島・尾藤監督対談【3】
デイリースポーツ評論家の山下智茂氏(71)=星稜総監督=が高校野球の未来を考える企画の第5弾は、2011年3月に他界した尾藤公・箕島元監督(享年68)の長男で13年から母校箕島を率いる尾藤強監督(46)を訪ねた。1979年夏の甲子園では延長十八回の死闘を演じ、後に甲子園塾初代塾長の公さんから、その要職を山下氏は引き継いだ。山下氏と尾藤監督にとって、影響力が大きかった公さんの存在。2人の思い出話は尽きることがなかった。
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-甲子園に出て変わった。
尾藤強監督(以下、尾藤)「欲がものすごく出ました。いくつまでやるかわからないけど、20年やっても40回しかチャンスないんやって」
山下智茂氏(以下、山下)「甲子園に初めて出た時、通路の下から(ベンチ横へ)上がって、うわーっ男でよかったって思った。独特の球場。(ベンチは)下からの目線で見えるから一体になって野球がやれる、あの雰囲気はない。世界一のグラウンドとよく僕は言うけど」
-公さんが一生懸命になった気持ちは。
尾藤「はっきりわかった。1つ勝つのがどれだけ大変か。あのおっちゃんはどれだけ勝ったのか。優勝するのがどれほど大変か」
山下「しかも春夏連覇を公立で。この環境でね」
尾藤「(当時と)何も変わっていないですからね。言い訳できない」
山下「好きなたばこを吸って、好きなだけ飲んで、ほんと不思議な人やな。負けず嫌いの気性は(自分と)よく似ていたね。ユニホームを脱いだら、子供たちがかわいくて仕方ない。口はお互いに悪かったけど」
-最初から野球のことはあまり教えてくれなかったと。
山下「食べ物の話とかそういう話ばかり。人の悪口は言わなかった」
-いつか日本一と。
尾藤「(思いが)なかったらあきません」
山下「目標はみんな日本一。日本一になりたいんじゃなく日本一の子供を育てたい」
-これからの高校野球について。子供の気質の変化に指導も合わせる?
尾藤「それはないと思います。子供自体は変わってないと思う。周りでしょうね。物とか携帯とか。今の子はとか言いたくない」
山下「監督は教員がいいとよく言うのは、授業でいろいろ見られるから。でも反対の立場で世の中の苦しさ、苦労は知らない。先生は教えるのがプロだけど、世の中の経験はゼロ。そういう視点で(会社員である尾藤監督は)高校野球の教え方は違うんじゃないかと期待している」
-お父さんもボウリング場に務めていた。
山下「靴を蹴られてケンカしたとか、失敗話はしてくれるのに、野球の話や病気の話は全然しなかった」
-ビハインドの場面を想定したゲーム形式の練習をやっていたが。
山下「ああいう発想はなぜ生まれた?」
尾藤「シート打撃で走者が出て淡々とこなしているように見えたんで、臨場感持ってやるために智弁(和歌山)をイメージしようかとブラスバンドを録音してきて大音量でやってたんです。手探りでやったけど、思いの外選手は入り込んでやっていた。それを改良しながらですね」
山下「僕らもゲーム前のノックとかで何点差とかプレッシャーをかけながらやるけど、試合形式というのは初めてでびっくりした」
-現実に即した練習が多い。
尾藤「そればかりです。すぐに淡々とするんで」
山下「音楽を鳴らすってすごい」
-イメージトレーニングとも違う。
山下「大会歌とかなら流すけど、相手のブラバンは珍しい」
尾藤「智弁は新曲増えたらしいぞ、録音行ってこいと(笑)。和歌山レベルだと、相手の大音量の音でだいぶやられますので」
山下「(打撃練習を見て)個性のある子が多いね。型にはめてないからおもしろい。相手チームからしたら嫌だろうね。投手に応じて打線を変えたりされると。最近は自分の特長を忘れてネットで情報を得たりするから、1番から9番まで同じような打者に見えることが多いけど」
尾藤「監督になってすぐに山下先生から言われたのが、打線は1、3、6、9番をよく考えるようにということ。今も6番にいい打者を置くようにしています。クリーンアップ後の6番にチャンスが来ることが多いからチャンスに強い子を」
山下「あとはラッキーボーイをどう見つけるかも大事だね。9番で使ったりね」
-自身の社会人経験をどう生かすか?
尾藤「野球につなげるのは難しい。でも、せっぱつまった時、思いがけないことあったり、相手が格上だったりした時にどうするか?困ったことあったら言うてこいという人に、本当に困って言いに行ったら自分も大変やねんという人ばかり。自分もしんどいけど話し聞いてくれる男になってほしいと思う。誰かがエラーしても逆にチームが一つになれるチャンスやと思ってくれたら、少々のことは大丈夫。今はまだ浮き足だつし、あいつのせいとなる。高校野球は28カ月くらいで短い。7年くらいあったらいいんだけど」
山下「大学野球はいいと思う」
尾藤「中学でてんぐになって入ってきたら、1年くらいは確実に棒に振る。和歌山の子は全国レベルのすごい選手をそんなに見ていないから、自分はできると思ってやっている。それなのに、結構すごい選手を見たらすぐに認めちゃう。負けてると思っても負けるか、と昔は思った。でも今は、すげ~、やばい、えぐいとか(笑)。あどない(あどけない)なと思うことはありますね。上下関係も昔に比べたらないけど、厳しさが欠けている。そのバランスはどうしたもんなんやろうと」
-ハングリーの感覚が昔と違う。
山下「全然違うね」(4に続く)