「第7回明るすぎる劇団・東州定期公演2016」
2016年05月23日
「残酷―」のエンディングで場内を練り歩く戸渡阿見
戸渡阿見(ととあみ)(深見東州)が総合プロデュース、原作、演出、脚本、衣装、音楽、パントマイムと八面六臂(ろっぴ)の活躍をする「第7回 明るすぎる劇団・東州 定期公演2016」が5月14、15の両日、東京都渋谷区の新国立劇場(中劇場)で行われ、抱腹絶倒の中、幕を下ろした。第1回公演からシェークスピア劇団の再来と呼ばれた「明るすぎる劇団・東州」だが、第7回公演を迎え、メッセージ性を強め、さらに円熟味を増してきた。
「慈悲と慈愛」あふれるメッセージ
耳なし芳一が観音に
セリフの一つ一つに、演技の端々に戸渡阿見(ととあみ)のメッセージがほとばしっていた。両日とも1000人を超す大観衆は、ただ舞台を見上げるしかなかった。
2007年5月の旗揚げ以来、演劇界の話題をさらい、見る者を「戸渡阿見ワールド」に誘ってきたが今回は、抱腹絶倒の演目の中にも、強い強いメッセージが込められていた。
最初の演目は「残酷な天使のナットウキナーゼ」。エンディングで戸渡阿見や出演者が総出で「梨」を配り歩く際に歌い上げる「残酷な天使のナットウキナーゼ」は、日本を代表するアニメ「エヴァンゲリオン」の主題歌「残酷な天使のテーゼ」のオマージュだが、劇の内容は濃密だった。
前世では小泉八雲=ラフカディオ・ハーンの著書「怪談」で登場する耳なし芳一が仏様になり、天使の姿をした観音へとなっていく姿が描かれている。「慈悲と慈愛」。広大無辺な仏の慈悲が詰まっているが、黒の上下に身を包み、サングラス姿の釈迦(しゃか)が登場し、そのウイットに富んだ会話で場内を爆笑の渦に巻き込む。外見は関係ない。どんな姿にも身を替えられるという教えが、こころを打つ作品だ。
ハリウッドの娯楽大作、インド映画にも負けない踊りや演技に場内一体化
2つ目の演目「へそ」も、戸渡阿見らしいダイナミックな作品に仕上がっている。劇中、北野武監督が映画「座頭市」のラストで見せたような、ダイナミックなタップダンスが展開されるが、実はこれはインド映画をモチーフにしたような作品だった。
インド映画を世界で一躍、有名にした「踊るマハラジャ」という作品がある。この映画はヒーローである主人公が意味なく踊りだしたり、どこからともなく馬車で登場したりする。「海賊ブラッド」などで活躍したハリウッドスター、エロール・フリンの活劇仕立てのようだが、戸渡阿見は「それ自体には意味がない。でも、それが面白いところ」と話す。
確かに、ハリウッドの娯楽大作、インド映画にも負けない踊りや演技に、いつしか場内が一体化していくのも無理はなかった。
2組のカップルが「へそがへそを曲げた」「へそが茶を沸かす」という、怪奇現象をきっかけに老人に出会い、最後は結婚へとたどり着いていく。「日本の中心は西荻窪」という設定やビッグバン、カシオペアまで登場するという奇想天外なストーリーだ。両作品ともに、戸渡が飛行機の中でひらめいたという作品だというが、この人の発想の豊かさ、才能が詰まった作品だ。
冴えたパントマイム
もちろん、これまでの6回の公演同様に、パントマイムも冴(さ)えに冴えた。「残酷な天使のナットウキナーゼ」の前には『甲殻機動隊「カニ」シリーズ』ではサワガニ、越前ガニ、毛ガニ、花咲ガニ、タラバガニを演じ分けた。また、「残酷―」後の『甲殻機動隊「エビ」シリーズ』ではオキアミ、桜エビ、カワエビ、ボタンエビ、シマエビ、オマールエビ、そして伊勢エビまでも自らの肉体を使い、舞台に登場させた。
かつてアカデミー賞の「作品賞」などに輝いたフランス映画に「アーティスト」がある。サイレント映画の大スターを演じたジャン・デュジャルダンの演技はセリフはなかったものの、その表情、ダンス、体の動きで観客の胸を打った。この日の戸渡阿見のパントマイムは、まさに「アーティスト」、いや、それをもしのぐできだった。