朝ドラ音楽の世武裕子、ライブは5人鍵盤

現在放映中のNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』をはじめとする数多くの映画、ドラマ、CMの音楽を手がける一方で、ソロとしては前作『WONDERLAND』(2015年)からs?buhiroko名義で作品を発表し、よりパーソナルな個性を深化させ続けてきた世武裕子。昨年11月にリリースされた最新アルバム『L/GB』では、シンセなども多用してよりダークなシンセ・ポップやダンス・ミュージックと親和性の高いサウンドに。2月8日には「ビルボードライブ大阪」(大阪市北区)にて、5人全員が鍵盤奏者という異色の編成でのライブを控える彼女に、ソロ名義での活動とサントラの関係、音楽だけにとどまらないインスピレーション源などについて幅広く語ってもらった。

取材・文/吉本秀純

──まずは、シンガーソングライター色が強いソロ作品をアルファベット表記の「s?buhiroko」名義で発表するようになった理由について、改めて聞かせてもらえますか?

「サウンドトラックは、やっぱり映画やドラマが求めている着地点みたいなのがあって、そこに向かって私も制作陣の1人としてやっていく感じなんですけど、自分の作品はもうちょっと自分の美学みたいなものを突き詰めていく作業なので。結構ベクトルが違うし、作っているときの自分の精神状態も違うので、聴いてくれる人に届けるときにもコレは違うんだよということを示す気持ちで分けることにしました」

──サントラ仕事を多くこなしていると、よりパーソナルな部分を表現したくなる欲求も高まるんですか?

「やっぱりサントラの仕事が順調になってくると、あまり自分の作品で『いろんな人の共感を得なきゃ』という気持ちは薄くなってくるというか。それはありますね。以前は、自分の作っている音楽がどうやったらもっといろんな人に届くんだろうというジレンマがすごくあったんですけど、自分の音楽がサントラであっても結構な人数に届くようになってからは、そういう意識が薄くなったというか。そういう意味では、今は『幅広く』みたいなのとはちょっと違うところにフォーカスできるようになったと思います」

──なるほど。そんな棲み分けの明確化も経ての2ndアルバム『L/GB』は、よりシンセの多用やダンス・ミュージック的な要素を含んだソリッドな音作りで、独自性を高めた作品になっていますね。

「そうですね。自分がより好きな方向に行っているところはあると思います。前作の『WONDERLAND』のときにも、ダークでちょっとゴシックでプログレッシヴでオルタナな音をやりたいと思っていたんですけど、それまでに私がそういう作品を作ってこなかったので、そういう音楽をやりたいという入口にいるような作品だったんですよ。で、『L/GB』ではもっと好きなところに近づけた感じがあります」

──『L/GB』では、各楽器やコーラスはもちろんのことドラム・プログラミングまでもほとんど自身でこなして作り上げている点も大きいと思いますが。

「一番大きいのはドラムの打ち込みですね。以前は、リズムを打ち込む自分の技術を気にして、前作では友人の江島啓一さんにやってもらって。今回の7曲目の『Long Goodbye』でも彼にやってもらっているんですけど、今回はテクニカルにどうかと言われても自分がカッコいいと思えるものになっているならいいや、と自分のカンを信じて自分でやるようになりました。クリックに合わせて自分で手で打ち込んだりしたので、リズムの打ち込みとしてはかなり特殊な形になっていると思いますけど」

──そこにも独特のタイム感が出ていて、一言で何に似ていると言い切れない『L/GB』の独自性をより高めていると思います。

「よく『この人に似ている』みたいなことはよく言われるんですけど、わりと自分の中では謎な人が多くて。結構同じ人が挙がってくるんですけど、どういうところが似ていると思うのかなと考えることはありますね」

──例えば、誰を引き合いに出されることが多いんですか?

「今回に限らずですけど、ビョークとかシガー・ロスはすごいよく言われます。でも、私はどちらかと言うと、デペッシュ・モードとかニュー・オーダーとかの方が近いと思っているんですけど(笑)。特にニュー・オーダーはすごく不思議で、私がまだフランス留学中でニュー・オーダーを知る前に、私が書いた弦楽のスコアを聴いたフランス人に『ニュー・オーダー好きでしょ?』ってすごく言われたんですよ(笑)。その後に、劇伴をやっているときにもちょくちょく言われたので、何なんだろうと思って後で聴いてみたら、言ってることがわかる気がするなと思いました」

──確かに、シンセのトーンなどもニュー・オーダーやデペッシュ・モードを引き合いに出す方が、しっくりくる感じはありますね。

「そのあたりの側面も感じ取ってもらえると、もっとライブの面白さにも気付いてもらえる気もします。フワッとして空間性があって、夜にCDで聴いているとすごく胸に響きました、みたいな受け止め方ももちろんすごく嬉しいんですけど、ライブでの『オラーッ!』という感じはあまりイメージしてもらえないというか。そのあたりの自分の想いも、もうちょっとうまく届いてくれるといいなとは思っています」

──シンパシーを感じたり、やっていることが似ているように感じる音楽家を挙げるなら、誰になりますか?

「音楽家じゃないんですけど、最近『ネオン・デーモン』という新作映画が公開されたニコラス・ウィンディング・レフン監督の作品は、観ていてめちゃくちゃ近いモノを感じますね。もちろんホントに彼がやりたいと思っていることなんて彼にしかわからないですけど、映画を観に行くと隅々までわかるわ~というか、彼の感覚って自分が音楽を作っているときのモノにホントに近くて。『ネオン・デーモン』は『ドライブ』(2011年公開の代表作)から入ったファンには受け入れにくいんじゃないかな、という部分もある特殊な作品なんですけど、自分はコレ!と振り切れているから、ある意味で『WONDERLAND』から『L/GB』に行った自分に近い感じも少しありました。だから、私は音楽の様式とか雰囲気よりも、スピリッツが近い人を好く傾向にあるというか。音楽に話を戻すと、自分のソロ作品を女性シンガーソングライターとまとめられても悲しいし、ロックでもクラシックの音楽家みたいな人もいれば、ストラヴィンスキー(ロシアの作曲家)には近いものを感じたりもするので。音楽ジャンルで分けて聴いていないところはありますね」

──一方でサントラでは、現在放映中の連続テレビ小説『べっぴんさん』の音楽が今まさに幅広く聴かれているわけですが、ローマ字名義でのソロ作を聴いてからサントラ盤を聴くと、こちらにもミニマル音楽的なリフの多用や旋律などに、世武さんならではの個性はしっかり入っているのがよく聴き取れました。

「今まではラッキーなことに、ソロアーティストとしてのスタートの方が先だったので、そちらの要素もちょっと欲しいということでオファーしてきてくれる方が多いんですよ。『べっぴんさん』の制作陣も、私のライブにも来てくれていたりしていて、ライブでやっているようなローマ字のs?buhiroko感もちょっと欲しいですと、冒険を楽しんでくれているところもあって。『初期のクラフトワークみたいな・・・』と言われて、すごくテンションが上がってそういう曲を作ったら『ちょっと初期のクラフトワーク過ぎたので、もうちょっとわかりやすく・・・』と言われたこともあって。私も作りながら、コレはどこの場面で使われるのだろうと思っていたんですけど(笑)。でも、2月22日に発売される2枚目の『べっぴんさん』のサントラ盤は、ドラマの設定が大阪万博や初期クラフトワークが活動していた時期になってくるので、今までのサントラとは違う面白いテーマで作った曲もいくつか入っていたりします」

──『L/GB』を聴いて、こういうサウンドでサントラをとオファーしてくる仕事も出てくると面白いですね。

「デヴィッド・クローネンバーグみたいな映画監督が日本に出てきたら面白いですね。近年に海外では、いわゆる劇伴みたいなのではなくて選曲式でのサントラも増えてきているんですけど、そういうのもやってみたいですね」

──2月8日には「ビルボードライブ大阪」で『L/GB』の発売に伴うツアーがおこなわれますが、こちらもアルバムにベースで1曲参加した村田シゲさん、ISSEI MIYAKEのショーで共演したOpen Reel Ensembleのメンバー2名を含む5人全員が鍵盤を弾くという特殊な編成で、実際に観ないことには予測がつかないセットになりそうですが(※ゲスト・ドラマーとしてBOBOの参加も追加決定!)。

「村田シゲもOpen Reel Ensembleも、まったく自分の持ち楽器じゃないものを演奏するんですけど(笑)、個人練習を頑張ってもらっています。でも、弾ける弾けないよりも、センスがある人とやりたかったので。私の持っているプロフェットやミニ・ムーグなどのアナログ・シンセサイザーを貸して、必要なときには返してもらったりしながら練習を進めたので、当日のライブでもいろんなシンセが並ぶと思いますし、鍵盤メインでもムーディーな音楽ではなくて、アグレッシヴなライブが出来るところも楽しんでもらえれば、と思います」

(Lmaga.jp)

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