声優も驚いたヒット ヒミツは応援上映

「応援上映」というものをご存じだろうか? 『シンゴジラ』や『HiGH&LOW THE MOVIE』、最近では『名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)』や『帝一の國』などでも実施され、少しは耳にしたことがあるかもしれない。コスプレやサイリウム、フラッグの持ち込みや、声援、唱和、ツッコミOKとされている観賞スタイルのことで、このブームの火付け役となったのが、昨年1月に公開された劇場アニメ作品『KING OF PRISM』(通称・キンプリ)だ。

キンプリの応援上映は「映画館で楽しむアイドルのコンサート」のようなものだが、体験していない人にとっては「それが一体どんなものなのか、なにがおもしろいのか?」と、理解の範疇を超える未知の世界。ここまで人々を熱中させたワケは一体何なのか。キンプリでキャラクターの声を担当している、声優の畠中祐(香賀美タイガ役)と八代拓(十王院カケル役)のインタビュー、そしてファンの声から、応援上映、そしてこの作品の魅力について考えていく。

「応援上映」を前提に作られた「キンプリ」

ボーイズユニット・Over The Rainbowらが、女の子をもっともトキめかせる「プリズムキング」を目指してさまざまな試練や困難に立ち向かっていくというストーリーの作品。作中ではダンスバトルやライブシーンが多く、観客は、サイリウムを振りながら登場キャラクターを「応援」していく。また、合いの手を入れやすい間が設けられていたり、なかにはテロップが表示されて観客が「はい、ア~ン!」などアフレコできる場面もあり、この作品は観客がいなければ成り立たないといっても過言ではない。ここまで応援上映が浸透していなかった当時、声優はどう台本の意味を理解し、作品と向き合ってきたのだろうか。

「ト書きだったりセリフだけだと理解できない部分が多くて、これは一体なにが起こってるんだろう、何をもってこのセリフを喋ってるんだろうと、自分の理解を超えてくる部分が多くて(笑)。最初はやっぱり戸惑いましたね」(八代)。「菱田監督が、何事も5歩先をいく方だと思ってて。だからト書きを読んでて『なんだ、腹筋で受け止めるって?』『なんだ、龍が降りてくるようにって?』という感じで、どうなるのかなんて微塵もわからなかったです。でも本編を見たときに、すべてが合致した気持ちよさっていうのが味わえたんですよね。はっ、菱田監督が描きたかった熱量はこれか!と」(畠中)。

感情をすべて引き出してくれる夢の世界が現実に

声優までも想像ができず戸惑ったという、この作品。となると、初めて映画館で観た人々の衝撃といったらそれ以上だ。作中ではフィギュアスケートとダンスと歌を融合させた競技を「プリズムショー」といい、キャラクターが「はちみつキッス」「無限ハグ」など技を繰り広げ、一度観ただけでは理解できない演出が秒ごとに畳みかけてくる。しかし、このような突き抜けた演出も、応援上映ならば周りの人が笑ったり、ツッコんだり、興奮したりするので、まさにそのときの感情をその場で共有できるのだ。楽しいこと、おもしろいこと、びっくりしたことを誰かとシェアしたいという気持ちを、この作品は全力で揺さぶってくる。

大阪市内のアニメ専門店でグッズを買っていたファンに話を聞くと、彼女たちにとってキンプリは「パラダイス」だという。平日は仕事をし、疲れた体を癒やして元気にしてくれるのだそうだ。「最初見たときは意味がわからない演出が多くてお腹を抱えて笑ったし、衝撃すぎてドキドキしました。2回目を見に行ってからは推しキャラを応援するのが楽しいし、感動もする。応援上映では知らない人と一緒に声援を送るのも楽しいし、コスプレも気兼ねなくできるし、ストレス発散に最高なんです」と、生き生きと語ってくれた。息苦しい現代社会では、自ずとストレス発散法を身につけ、吐き出していく。「キンプリ」は、高揚感や感動、笑い、共有欲といった感情や願望をすべて引き出してくれる夢の世界が、たった1時間1600円で現実世界に現れたものなのだ。

「共有したい」という口コミがヒットに繋がる

『キンプリ』は当初わずか14館の公開という小規模でのスタートだったにも関わらず、「共有したい」と口コミで徐々に拡がり、動員人数48万人、興行収入約8億を記録。1年以上のロングランとなった現状に、声優自身も驚いているという。

「純粋にビックリしました。この作品にこめた愛をくみ取ってくれたファンの方々のおかげだなって思います。口コミで広まっていったっていうのはすごくドラマチックでしたね」(畠中)。「広まっていった方法はめちゃくちゃアナログじゃないですか、口コミっていう。いろんな宣伝の仕方をしたとかではなくて、『見た人が良いって言ってる』という最もベーシックな宣伝の仕方でここまで『キンプリ』を大きくしていただいた。で、それが新作に繋がったっていうのが、もう感謝しかないですよね。すごい作品だなと思いました」(八代)

その待望の新作『KING OF PRISM -PRIDE the HERO-』(6月10日公開)は全国80館以上で上映される。「応援上映」の特徴として、行く時行く場所で合いの手や声援が変わるのがおもしろく、そのライブ感が何度も鑑賞したくなるポイントでもある。前作では「自転車気をつけて~!」など観客がスクリーンにむかって各々ツッコみまくって、みんなで笑い合う。この光景は関西の映画館で顕著に表れている。「大喜利みたいになるんだ(笑)。新作もどうみなさんがツッコんでくるのか楽しみですね~!」(八代)。「大阪の応援上映参加したい!(笑)」(畠中)。

新作の応援上映はこれからでどうなるのか未知数だが、「キンプリ」を愛する人々によって作品が完成されていくのだろう。現代版ストレス発散法として、半信半疑で1度参加してみたら、ハマるハマらないにしろ世界が変わるかもしれない。

(Lmaga.jp)

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