兵庫で明治七宝の名工・並河靖之回顧展
金、銀、銅、鉄などの金属素地の上に、ガラス質の釉薬を焼き付けた金属工芸品「七宝」。この分野を比類のないレベルにまで高めたのが、明治時代の工芸家、並河靖之(1845~1927)です。彼の業績を振り返る初めての回顧展『並河靖之 ?七宝』が、「伊丹市立美術館」(兵庫県伊丹市)で9月9日よりおこなわれます。
並河は京都の武家に生まれ、久邇宮朝彦親王に仕えていました。明治維新後に事業を起こそうと思い立ち、知人たちとお金を出し合って七宝制作に乗り出します。事業は必ずしも順風満帆ではありませんでしたが、熱心に技術や意匠の改良に努めた結果、国内外の博覧会で成功を収めるようになりました。全盛時には多数の外国人が工房を訪れるようになり、海外の新聞や雑誌にも取り上げられて、「並河ブランド」は国際的な名声を博します。また、明治29年(1896)には帝室技芸員となり、当代一流の工芸家としての地位を確立しました。しかし、大正時代になると七宝の需要が急激に下落。並河も工房を閉鎖し、その名は次第に忘れ去られていきました。
近年、超絶技巧ブームもあって明治工芸の人気が復活しています。並河の七宝もそのひとつ。細密な植線、豊かな色彩、四季折々の花鳥風月、そして研ぎ澄まされた透明な黒い釉薬は、他の追随を許さない魅力に溢れているのです。本展では国内に残る名品と下絵、資料など約110点が集結。華麗で輝きに満ちた並河七宝の美を堪能できます。
文/小吹隆文(美術ライター)
(Lmaga.jp)