奈良で、鳥瞰と細密と幻想の不染鉄展
異色の日本画家・不染鉄(ふせん てつ、1891~1976)。その才能を高く評価されながら、未だ不明な点も多い彼の画業に迫る21年ぶりの回顧展『没後40年 幻の画家 不染鉄』が、9月9日より「奈良県立美術館」(奈良県奈良市)でおこなわれます。
明治24年(1891)に東京・小石川の光円寺に生まれた不染鉄は、20代初めに日本美術院会員となりました。ところが、写生旅行に出かけた伊豆大島の式根島で漁師になり、3年間をこの島で過ごします。その後、京都市立絵画専門学校(現在の京都市立芸術大学)に入学。在学中に特待生となり、第1回帝展に入選、首席で卒業するなど華々しい活躍を見せました。しかし戦後は画壇を離れ、奈良県に住んで飄々とした制作活動を続けました。
本展では、不染鉄の代表作や新発見の作品を含む絵画、焼物、絵葉書など約180件を紹介します。大正時代から繰り返し描いてきた富士山、奈良・薬師寺の東塔を描いた絵画や焼物、戦後に新たな画境を切り拓いた「海」を主題にした作品、晩年の胸中を感じさせる心象風景などが並び、彼の約60年に及ぶ画業を展観する絶好のチャンスです。料金は一般800円ほか。
文/小吹隆文(美術ライター)
(Lmaga.jp)