アイドルはなぜ、地下で夢を見るのか!?【大阪ルポ・第1回】

体力的にも金銭的にもハードな地下アイドルの世界

私、田辺ユウキは2016年3月から、『くぴぽ SOS!』というドキュメンタリー映画にプロデューサーとして関わっている。ちょうど20年前の1997年、オーディション番組『ASAYAN』でモーニング娘。に見入った。そして、モー娘。への興味が落ち着きはじめた時期に、ももいろクローバー(現ももいろクローバーZ)を好きになった。そして、ももクロが主演した短編映画『NINIFUNI』(2011年・真利子哲也監督)の関西宣伝を担当したことをきっかけに、「地下アイドル」と呼ばれる人たちとの仕事が少しずつ増えていった。

ドキュメンタリー映画『くぴぽSOS!』は、その過程で出会った地下アイドルのグループや界隈にクローズアップしている。しかも、東京ではなく大阪という地方で活動する人たちが題材なので、かなり狭小的で、それゆえ濃い。そこでの文化、現象の一部を追いかけている。私は、同作に携わったことをきっかけに、ひとつの考えをめぐらせるようになった。それは、「アイドルはなぜ、地下で夢を見るのか?」ということ。

多くの地下アイドルは、音楽活動一本では食べていけない。メイド喫茶やコンセプトカフェなど「アイドル活動から派生した職業」に就いている女の子もいるが、とりあえずみんな何らかの本業を持っている(彼女たちにとっては「本業」の方が「副業」かもしれないけど)。なかには、ちょっと驚くような立派な本業の地下アイドルもいる。「どうしてその道だけ進まないんだろう?」とつい思ってしまうのは、もう若くないからだろうか。

なぜなら、アイドル活動は金銭事情が大変だ。グッズや音源の制作費、衣装費、スタジオの代金、ライブ会場までの移動費、etc・・・。とにかく経費がばかにならない。イベントに出てギャラや交通費をもらえる地下アイドルなんて、実はほんのひと握り。アイドル本人、またはスタッフは、ツイッターやメールでチケット予約(取り置き)を募り、自分たちをお目当てにやって来たお客さんが支払ったチケット代金の一部を、収益として受け取る(チケット料金の30%バックが多いが、価格に関わらず500円の場合もある。また、大きいイベントでは逆に数万円の出演料を取られることも・・・)。

そんな地下アイドルの最大の収入源は、特典会や物販。特に、アイドルと一緒にインスタント写真が撮れるチェキ撮影会が人気だ。1枚、だいたい500円から1000円。だけど、『くぴぽ SOS!』で密着したグループ、くぴぽは撮影当時、チケット予約ゼロ、物販売り上げゼロのときも少なくなかった。その他の地下アイドルも、ゼロとは言わずとも、同じように売り上げがキツい日が多々ある。

体力的にも、金銭的にもなかなかハードな地下アイドルの世界。それでも「地下アイドルになりたい」と言う女の子と、何人も出会った。一方で「地下」という言葉を嫌い、「私はアイドルじゃない。アーティストだ!」と語気を強めながら、アイドルイベントに出演し、チェキ撮影会で小銭を稼いでいる子もいる。地下アイドルを出発地点にして「いつか有名になりたい、売れたい」と願う女の子は多いが、逆に「別に売れたいとは思わない」と話す地下アイドルもいる。人それぞれだが、それにしてもみんなどうなりたいんだろうか。

と、非常に前置きが長くなったが、この連載では、いろんな人の証言などをもとにしながら「今の地下アイドル」、とりわけ「大阪で活動する、地方の地下アイドル」の生態をルポタージュしていく。まず1回目は、関西を拠点に長年にわたりアイドルをインタビューしている構成作家・ポッター平井にインタビューをおこなった。あらためて地下アイドルについて解説してもらった。

地下アイドルはアイドルにあらず?

──平井さんはいつ頃からアイドルに興味を持ちはじめたのですか。

「1980年にデビューした松田聖子さんが歌っているところを見て、子どもながらにその輝きに衝撃を受けたんです。こんな人がいるんだ、と。それから、82年組(註1)、おニャン子クラブ、南野陽子さんにハマったりして。大阪の豊中に住んでいたので、千里セルシー(註2)でのりぴー(酒井法子)、西村知美さんなんかをよく見に行っていました」

註1:「82年組」1982年、小泉今日子、堀ちえみら多くの逸材がこの年にデビュー。「花の82年組」と呼ばれた

註2:「千里セルシー」大阪・豊中市にある複合商業施設。同所のセルシー広場には新人から大物まで多くのアイドルがライブをしていた

──40年近くアイドルをご覧になってきた平井さんですが、地下アイドルという言葉を知ったのはいつ頃ですか。

「AKB48が出てきた頃なので、2005年くらいですね。それまでは地下アイドルという言葉は、私は聞かなかったし、地方を拠点に活動するご当地アイドルも今のように多くはなかったはずです」

──平井さんなりに、地下アイドルを説明するとしたら、どういう風に言いますか。

「まあ、やっぱり大手事務所に所属していなくて、フリーランス、もしくは小さい事務所ですよね。地上というか、大きいアイドルはテレビなどのメディアへの露出がメインですが、地下アイドルはライブが中心。地下アイドルや地方を拠点とするご当地アイドルの数が一気に増えはじめたのは、AKB48がブレークした2010年くらいから。私は当時、『KANSAIアイドルGENKIフェスタ』というイベントを開いていて、ハロプロ関西だったSI☆NA(2008年~2011年)、ホリプロ関西のHOP CLUB(2001年~2012年)、あとOSAKA翔GANGS(2006年~)、Mary Angel(2007年~2015年)など、大阪を拠点にするアイドルに出演してもらっていましたが、その頃からご当地アイドルというワードもちょっと出てきていましたね」

東京の大手事務所だけではなく、地方各地でアイドルがどんどん増えたことで、メディアや大きいコンサートといった受け皿も足りなくなり、活動場所をライブハウスに移しはじめた。メディアを主としないアイドル。地方で活動するご当地アイドル。この両方が同時期に乱立したことが、現在の地下アイドルの文化に繋がっているのではないか。振り返ってみれば2000年代前半まで、ライブハウスにアイドルがブッキングされていることはなかった。でも今は、大阪・アメ村のゴリゴリのライブハウスでも、地下アイドルが当たり前のように出ている。

アイドルはもともとメディアという高い壁の向こうにいて、事務所からのスカウトやオーディションといった難関を突破しなければアイドルにはなれなかった。でも、AKB48やももクロが掲げた「会いに行けるアイドル」というキャッチコピーよろしく、ライブハウスだと手が届く。お客さんとしてアイドルを見に来ていた女の子が、そのグループに加入するということも珍しくない。誰でもアイドルになれるようになった。その一方で平井さんは、そういった地下アイドルの傾向に関しては疑問に持つ部分が多いとも語る。

「いや、スタートはそこで良いと思うんですよ。でも、アイドルをやるのであれば、有名になりたいとか、上を目指して欲しい。そういえば、橋本環奈は完全に地下アイドルだった。でも、誰かが撮った写真がネット上でものすごく拡散された。事務所の人もびっくりしていましたし。何も仕込んでいなかったから。でも、あれよあれよとメディアの取材が殺到した。ただ、自分が伝え聞いている地下アイドル像って、どうしても私が好きだった80年代のアイドルとはかけ離れてしまうんです」

──AKB48の登場から地下アイドルが増えてきたとおっしゃっていましたが、そもそもAKB48も、今で言うところの地下アイドルでしたよね。まあ、秋元康プロデュースではありますが。

「AKB48は専用の劇場があって、そこで毎日ライブをするというシステムが画期的でした。メンバーも今ほど多くないけど、それでも大人数だった。果たしてそれで毎日ライブをやって、運営は続くのかと疑問もありました。ライブでのし上がっていくというやり方が、全然想像できなかったんです。それは当時だから、真新しいことですよね。あと、AKB48の歴史を振り返ったとき、やっぱりSNSの影響が強かった。ライブを見に来た少数が、ツイッターやブログで広げていった。時代と合致していましたよね」

──たしかに、今のアイドルはSNS無しでは活動できないです。

「実際、パフォーマンスが良くなかったら拡散はされなかっただろうし、この子はいい素材だという原石もちゃんといて、2時間のステージがよく出来ていた。あと、ファンの声を聞き入れて、それを実行するスタイル。篠田麻里子なんかは劇場内のカフェ店員からスタートして、噂になって、グループに加入しましたし。総選挙だってもともとは、事務所が決めていた選抜メンバーに納得いかないファンの声があって始まったもの。当時は、今のようにメジャーなアイドルではなかったけど、しかし運営の体制が非常にきっちりしていた」

──何をきっかけに地下から地上にあがれるか、分かりませんよね。

「ただ、地下アイドルというフレーズ自体には、良いイメージが浮かばないんですよ。自分で地下を名乗ることで世界が狭くなってしまうし、しかも『その世界のなかでやっていれば、それでいい』という印象を私は持ってしまうんです。もちろん、地下の人たちをアイドルと言えるかどうか、それは見た人の判断。大阪には、地方とは言ってもすでに何百では収まらないくらいのアイドルがいる。だからこそ、行き当たりばったりでアイドルをやるのではなくて、アイデアと体制をしっかり作って動かないと、すぐ消えてしまいます」

取材・文/田辺ユウキ

(Lmaga.jp)

関連ニュース

編集者のオススメ記事

関西最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング(芸能)

    話題の写真ランキング

    デイリーおすすめアイテム

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス