40周年のゴンチチ「どんどん我を排除していっている感じ」
大阪を拠点に心地よくも多彩なインスト音楽を奏で続け、2018年には結成40周年&デビュー35周年の節目を迎えたゴンチチ。オリジナルアルバムとしては7年ぶりとなった最新作『we are here』は、これまでの音世界を支えてきた名アレンジャーたちに加えて、中井雅子(Rayons)やドリアンといった若い世代の音楽家も起用し、ボサノバ、ジャズ、イージー・リスニング、電子音楽などの要素を現代的かつ原点回帰的なアプローチで統合させた会心作となっている。スムースながらも一筋縄ではいかない仕掛けに満ちた快適音楽を、妥協のないプロダクションと柔軟な音楽的ユーモアに満ちたアプローチで進化させた新作について、ゴンザレス三上とチチ松村の2人に訊いた。
取材・文/吉本秀純
「今の35歳以下は、粋な音楽を自然に身に付けている」(ゴンザレス三上)
──オリジナル・アルバムとしては7年ぶりの作品となりましたが。
松村「しばらくはアニメのサントラとか、依頼された音楽を作ることが続いていたんですけど、今回は結成40周年ということで、最初は三上さんと40年間の集大成みたいな作品でいこうかと。でも曲作りや録音を進めていくうちに、三上さんからYouTubeなどで面白いと思った若い人に、こういう曲をやってもらったら面白くなるん違うかなというアイデアがいくつか出てきてね。で、会ったことはなかったけど、三上さんから『どうでしょう?』とメールを送ってやってもらったら、すごく良かったんです」
──ゴンチチ作品の常連陣に加えて、現代音楽家の中井雅子(Rayons)さんとドリアンさんを1曲ずつアレンジャーとして起用しているのは今回の大きなポイントですね。
松村「中井さんは聴いてみると弦やピアノの入れ方もいい感じだったし、実際に初めてお会いしてレコーディングで先にギターを入れましょうとなったときにも、『今の部分はもうちょっとこういう感じで』と、31歳の女の子からものすごくディレクションされて(笑)。でも、それがすごく的確でね。なるほどそうかそうか、と逆にこちらが教えてもらうこともありました」
三上「今の若い人はしっかりしていますよ(笑)」
松村「で、ドリアンさんも三上さんがなにかの流れで見つけてきた人ですけど、デモを聴いたら音のチョイスも面白かったし、ゴンチチの作品も初期のものから全部聴いていて、影響を受けていると言うんですよ。昔の僕たちの作品を聴いて、そこからインスパイアされて今の手法で作っている音なので、余計に重なりがすごかったですね」
三上「今の35歳以下の人たちが作る音楽って、僕が当時に聴いていた古いムード音楽とか、粋な音楽の要素をわりと自然に身に付けているという感じがすごくしていて。気に入った人たちの音楽を聴いていると、そこはそうなるよねというのがとてもわかるんですよ。だから、レコーディングも作業はスムースでした。たとえば、僕が打ち込んだトラックにちょっとしたリフを付け加えてもらうというのは普通は難しいんですけど、ドリアンさんの場合は自然とそれがパッと出来たりして。信頼できるというか、自分と同じようなベーシックなものを持っていると感じる人が、若い人に増えてきているなと思います」
松村「三上さんは、最近の韓国の若いラッパーの音楽を聴いていても、アレンジをしている人が絶対にムード音楽の一番いい部分をわかっている感じやと言っていて(笑)」
三上「Penomecoというラッパーのトラックを作っている人なんですけど。今回のアルバムを作るうえでもちょっと影響を受けましたね」
──結果としてその2曲に象徴されるように、全体的にはゴンチチらしい心地よさは保ちつつもエレクトロニクスやストリングスの使い方が斬新な、音楽的にかなり攻めた作品になっています。
三上「最初は僕らの集大成みたいなものを作ろうと思っていたんですけど、そういう若い人のエッセンスが入った途端に、両方が混在している感じがいいかなと」
松村「僕も最近にアナログ・シンセサイザーの音がエエなと思っていたので、そういう要素もいっぱい散りばめることができてうれしいなというのがありますね。こういう昔のムード音楽的なことをやっている人は今はもうあまりいないと思うし、なおかつそこにナイロン弦のギターやシンセサイザー、ムード音楽的なストリングスが混ざっている音楽というのは、世界的に見てもほかにないんじゃないかな。そういう音楽がこの時期にこういう場所で生まれているというのも面白いことだなと」
「素養で弾いてもらった方が説得力がある」(ゴンザレス三上)
──初期の作品を彷彿とさせるアナログ・シンセの使い方も効果的ですよね。
松村「(音楽ユニット・イノウラトモエのキーボーディストだった)井上智恵さんがやっている『喫茶イノ(※現在は天六から京都に移転)』の2階で、増田くんというのが自作のアナログ・シンセサイザーを作って売っているんですけど、10曲目の『Showa Cafe』に入っているアナログ・シンセはそれを使っています。この曲ではバンドネオン奏者の小松亮太くんにも入ってもらっていて、バンドネオンの演奏では息を吸うような音が入ってきてそれはタンゴの世界では活かすんですけど、今回の曲ではそれをほとんど消して演奏してもらっています」
──確かにバンドネオンっぽくないというか、ほかではあまり聴けないタッチの音色ですよね。
三上「ほかに小松くんらしいテクニックを駆使したバージョンもあったんですけど、普通にシンセみたいに弾いてとお願いして弾いてもらったテイクを採用していますね」
松村「だから、すごく贅沢な使い方をしています(笑)」
三上「意外と僕らがバンドネオンのこの音色がイイと聴く分としては、技術的な部分よりもその人が本当に楽器に対して持っている素養で弾いてもらった方が説得力があると感じるんですよね」
──なるほど。その方がゴンチチのサウンドにもフィットするというか。
松村「そういうことでもうひとつ面白かったのは、3曲目の『dreamboat』ではタブラ奏者のユザーンさんに入ってもらってるんですけど、それもタブラやけどタブラらしくない感じで演奏してほしいと頼んだので、ものすごく困っていましたね(笑)」
──日本屈指の百戦錬磨なプレイヤーたちを困らせていますね(笑)。
三上「というのは、中井さんがこの曲を打ち込みでアレンジしたときにタブラっぽい音色を使っていたのでユザーンさんに頼んだんですけど、やっている途中にそれがタブラではなくてガタムというインドの壺みたいな楽器だとわかって。そうやって困らせるために呼んだわけじゃなかったんですけど(笑)、タブラを使ってガタムのように叩いてもらうというオーダーになりました」
松村「だけど、Rayonsさんの綺麗なアレンジのなかにタブラが隠し味的に入っているというのはほかにない曲調だと思うし、贅沢さが余計に際立っていると思います」
──いかにもという感じで入っているよりも、その方が逆に際立ってくるし、何度聴いても飽きがこない仕上がりになっていると思います。
松村「前面にガーンと出すんじゃなくて、抑える。それで言うと、1曲目の『Peperoncino』も僕は羽毛田丈史さんのアナログ・シンセっぽい音が好きで、そういうのがすごく入っているアレンジにしてほしいと言ったんですけど、それがずっと鳴っていると飽きがくるので、ちょっと控えたんですね。そうすることで何回も聴きたくなる音になったし、何度も繰り返して聴くうちに新しい面白い音がまた聞こえてくるようなアルバムになったんじゃないかなと」
「中毒症状が出る、そういう音楽がイイ」(チチ松村)
──そのあたりの多様さをドヤッ!という感じで前面に出すのではなく、抑えることで浮き立てたり何度も聴けるものに高めている部分は、40年のキャリアを持つおふたりならではですね。
三上「自分たちでも何回も聴けるアルバムを作りたいという欲求が強いから、そういうことになってしまうんでしょうね。さっきのプレイヤーを困らせた話にしても、その人がキャリアを重ねて培ってきたものよりも、その人が楽器に対してどうちゃんと向き合っているかという音色が欲しいという感じがあって、その人と(レコーディングを通して)探検するみたいな。そういうプレイが録れることで、僕らもハッとするんですよね」
松村「こうして話していて思ったけど、どんどん我を排除していっていますね。弾いている人の我がなくなった方が、より純粋に音楽として聴けるというような感じがします。絵画とかでも我がブワッと強く出ているものだとすごくてもだんだん疲れてくるし、それよりも吸い込まれていくようなものがイイ感じというか」
三上「歌手でもナット・キング・コールやフランク・シナトラを聴いていると、我のカタマリのようでいて実は我がほとんどないというか。流麗なストリングスを聴いているような、超えてくるとそういうところまで達するものもあって。僕らはそんなレベルじゃないですけど、そういう普遍性みたいなものを求めているのかもしれないですね」
松村「だから、言い方はちょっとオカシイかもしれないけど、最初に聴いたときにはフワッと柔らかくて聴きやすいんですけど、何度も聴いているうちにだんだんと体に毒が回ってきて中毒症状が出るというかね(笑)。そういう音楽がイイなと思います」
──毒かどうかはわからないですが(笑)。スムースだけど、気が付けば普通じゃない世界に連れていかれる。それはゴンチチの音楽の本質だと思います。ギターを主体としたインスト音楽だと、どんどんとテクニカルな方向などに向かいがちですけど、そんなこともないですし。
松村「そういう感じはないですね。やっぱり楽器が上手な方は、プレイ自体に喜びを感じている方が多いと思うんやけど、僕たちはそれよりも音楽が持っているひとつのムードみたいなものが好きなタイプで。プレイに走ると、あまり楽曲は関係ないみたいな方向になっていくときがあるけど、そうではなくて音楽自体がいいと感じられるかどうかというのは常にありますね」
三上「と言いながらも、今回はアドリブとかでわりとパッションのある曲もあるので、複合的な楽しみ方があると思います。いろいろ屈折していて抑えているんですけど、全体的にグルーヴなどを重視しているところもあったりするので」
──そんなゴンチチならではの音世界を40年目にして今にアップデートさせた新作を完成させて、1月6日の大阪「いずみホール」公演から『新春生音三昧2019』として全国5カ所のホールでのツアーがスタートします。
松村「京阪神はチェロとバイオリンが入った4人編成で、新作からもその編成で再現できそうな曲も2~3曲取り上げながら、あとはゴンチチの昔の曲で今までにライブであまりトライしていなかったような曲もやろうと思っています」
三上「昔に松村さんが作った曲で僕の好きな曲がひとつあって、でも結構ややこしい曲なので松村さんはライブでやるのをちょっと渋られていたんですけど、その曲を自分でコピーし直して演奏したら練習中に曲が良過ぎて松村さんが泣いたというのがありまして(笑)」
松村「その曲は譜面がなかったので、YouTubeでその曲をコピーしている人の動画も観ながら思い出しつつ、演奏してみたらめちゃめちゃ良くて。この曲はすごいわとヤル気が出たんです(笑)」
三上「その曲は必ずやるので、楽しみにしていてください」
(Lmaga.jp)