ホントにおもしろかった映画は? 評論家鼎談、洋画・勝手にベスト3

すでにLmaga.jpの恒例企画となった、評論家3人による映画鼎談。数々の映画メディアで活躍し、本サイトの映画ブレーンである評論家 ── 春岡勇二、ミルクマン斉藤、田辺ユウキの3人が、「ホントにおもしろかった映画はどれ?」をテーマに好き勝手に放言。2018年・下半期公開の、外国語映画ベスト3を厳選した。

「ネット配信はダメ、そんなこと言ってられない」(田辺)

田辺「僕のベスト外国語映画は、劇場映画じゃなくてNetflixの映画なんですよね。アルフォンソ・クアロン監督の。12月から配信が始まってて。とてつもないですね。カメラもクアロンがやってるから・・・」

斉藤「全部自分で撮ってるんだよね。『ファントム・スレッド』のポール・トーマス・アンダーソンと通じるところがある」

田辺「前からクアロンとずっとやってるエマニュエル・ルベツキがやってたけど、途中で降りたらしくって。序盤の方で降りて、クアロンが自分でやり出したらしいんですけど、特に後半は、『これどうやって撮ってるんやろ!?』ってシーンが多くて。しかも使ってるのが無名の俳優で。波にのまれるシーンがあるんですけど、『これどう撮ったらこんな風にできるんやろう?』って」

斉藤「クアロンはチャレンジャーやからね、前から。『トゥモロー・ワールド』もそうだったけど、撮りたい画を撮るための機械をわざわざ作ったりするでしょ。でもあの海に乗り出すシーンは・・・それまで徹底的に横移動に執着してのあれだけに、『これがやりたかったんか!?』と唖然となる」

春岡「マーティン・スコセッシ監督の『沈黙 -サイレンス-』でも、波にのみ込まれるシーンがあったけど、あれはアン・リー監督が『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』を撮ったプールなんだって。波の高さが調節できて、背景は全部CGなんだよ。で、波が来るところとかは本当にプールでやってるんだけど」

田辺「でも、今回のクアロンにはその作り物感がまったくなくって。僕はこれが圧倒的に。映像がすごかったなぁ。個人史的映画なんですけど」

斉藤「でも、軒並み映画祭にノミネートされてるよな」

田辺「しかも、Netflixですからテレビで観るわけですけど、たしか70mmで撮ってるんですよ(笑)」

斉藤「アホや(笑)。まあ、全部横移動なんで外景カットも誤魔化しが効かないんだけど、いかにも70年代って感じを街並みの隅々まで作りこんでてびっくりするし。でもさ、もし劇場公開されるとしても今どき70mmをかけられる劇場がないけどな、日本では」

春岡「俺さ、スバル座で昔バイトしてたとき、70mmのフィルム見たことあるんだよ。もう絵ハガキみたいなんだよ、1コマ・1コマが。普通のフィルム(35mm)の倍だから、こりゃあスゲえなぁって思ったもん」

田辺「それをネット配信のNetflixの映画で使ってるんですからね(笑)」

斉藤「それを許すNetflixがスゴいよなあ。ポン・ジュノの『オクジャ』が筆頭だろうけど、新作『007』の監督に抜擢されたキャリー・フクナガがアフリカの内戦を描いた『ビースト・オブ・ノー・ネーション』もなかなかの作品」

田辺「ホント、『ROMA/ローマ』のためにNetflixに加入しても全然いいですよ。テレビでしか観られないけれども、圧巻でしたね。今までネット配信作品はどうかなぁと思ってましたけど、『ROMA/ローマ』を観せられたらそんなこと言ってられない」

斉藤「クアロンは、ハズレないからね。メキシコでのデビュー作以来、全部観てるけど、今度のは新境地にして今までのベストといっていいしね。今のところ賞レースにほとんど全部ノミネートされてるけど、当然」

春岡「あとは『カンヌ国際映画祭』だけ? ネット作品はダメとか言ってたの」

斉藤「いや、カンヌはNetflix作品を2017年に2本コンペに入れたけど、それから反発が大きくて。でもそんな論争なんて、これで無意味になってきたかなあ」

春岡「そうなんだ。『ベネチア国際映画祭』は入れてたよね」

斉藤「ベネチアはさほど拒否症状なさそうやね。まあ、アカデミー賞はロサンゼルスで1年間に7日以上劇場で上映しさえすれば条件クリアなわけでしょ。ま、そんなこんなで年の瀬に『ROMA/ローマ』を観た後となっては結構揺らぎはするんだけど、僕の2018年下半期のナンバー1は『ヘレディタリー/継承』で決まり!」

「 僕的には、理想のホラーのひとつかもしれへん」(斉藤)

田辺「『ヘレディタリー/継承』もだいぶ頭おかしいですよね(笑)。極めて理知的でありながら!」

斉藤「いやぁ、冒頭からスゴい。ホラーというかオカルトだけど、作りはもう完全にアート・フィルム。冒頭のシーンを観たあと、反芻すると余計にそう感じられる」

春岡「あれ、ロマン・ポランスキー監督の『ローズマリーの赤ちゃん』(1969年)みたいだったよな。まあ、オカルトだよな。怖くはない」

田辺「最後の母親がキレるところですよね(笑)」

斉藤「いや、あれは最強に怖い映画ですよ! 僕的には、理想のホラーのひとつかもしれへん。前半の幽霊の出し方とかも、部屋の隅も暗い所に、ほんのちょっと暗さが違うだけのトーンでボーッと立ってる姿が見える、っていう。それで僕はデボラ・カー主演の『回転』(1961年)の『立ってるだけ幽霊』を思い出すのよ」

田辺「立ってるシーンは怖かったですね、確かに」

斉藤「それに音響設計がスゴいでしょ。基本的に、前衛サックス奏者コリン・ステットソンの変性された音が低いところでずーーーーっと不穏に鳴ってたり。となると、その音がどこで途切れるか、どこでまた鳴りだすかが気になる」

田辺「そこに舌を鳴らす音とかが入ってきたりしてね」

斉藤「うんうん! あの舌打ちが気味悪いよね、意味なく。とにかく終始カッコいい映画ってのが僕的には大きいなあ」

田辺「なるほど。ただ、劇場で観たとき、お客さんは意気込んで『怖い映画を観よう!』って来てたから」

斉藤「ああ、『私の思ってた怖さと違う!』ってことやろ? よく長いと言われるけど、全然そんなことない。あんなに終始緊張して観た映画は、今年は『ファントム・スレッド』くらいかな。音もそうだし、画面設計も寒色と暖色の落差にまでいろいろ意味を探ってしまう。すべてが作り込まれてるっていう意味では、その2本がダントツ」

春岡「『ヘレディタリー/継承』はそうだわ。最初から最後まで考えて作らないと、ラストはあそこまでいかないわ」

田辺「あのミニチュア出てきたあたり、ミルクマンさん好きそうですね、確かに(笑)」

春岡「あのオープニングはスタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』だよな」

斉藤「主演のトニ・コレットが、ジャック・ニコルソンにしか見えへんっていう(笑)。完全に影響下にあるのは間違いないけど」

田辺「暗いシーンでも鮮明に見える映像がスゴいですよね」

斉藤「そう、パヴェウ・ポゴジェルスキって、いかにもポーランド系のよく分からない撮影監督の映像がスゴいねん」

田辺「あの色度というか彩度というか。だからこそ怖いという」

斉藤「あれ、長編処女作やで。このあとどうするんや(笑)」

春岡「マニアなんだよ、だから」

斉藤「でも、ホラーのマニアじゃないような気がするねんなぁ」

春岡「いや、『シャイニング』のマニアなんだよ」

斉藤「それはあるかも。スタンリー・キューブリックは間違いなく好きやと思う。ただ、下半期で光ったのは『ヘレディタリー/継承』だけ、かな。もちろん、それだけじゃないねんけど。年間ベスト10に挙がるのは、上半期公開の作品が多くて」

春岡「そうなんだよ。俺はテイラー・シェリダン監督のが好きだったなぁ。でも、それくらいだったかなぁ」

「よくぞあの監督を起用した!という」(斉藤)

斉藤「あ、あれ観た? デビッド・ロウリー監督の。頭おかしいから(笑)。幽霊が出てくるけど、それって白いシーツ被っているだけ。修学旅行の夜か、っていう(笑)。それでいて、完全にテレンス・マリック的なスゴい時空の広がりにまで至る傑作。ま、『A24』っていう『ヘレディタリー/継承』と同じスタジオの作品なんやけど」

田辺「僕はですかね。完全にディズニーのブラックジョークですよね。映画としては1の方が良かったですけど、続編はよく話題になる『男がいないディズニーヒロイン』みたいなのを揶揄してて面白かったですね」

斉藤「でもちょっと狙いすぎてる感が鼻についたなあ、僕は。まあネタ自体がメタ・フィクション的なシリーズだし、別にいいんだけど」

田辺「主人公のヴァネロペが、自分の居場所を見つけるために別のゲームに入り込むんですね。そこで孤独な女レーサー・シャンクと出会うんですけど、それがガル・ガドットで。そして、ディズニーヒロインたちが『私たちって、王子がいないと何もできないと思われてるよね』という(笑)」

斉藤「完全にセルフパロディなんだよね(笑)」

田辺「ディズニーもここまでやるようになったな!っていう。あれはシビれましたね」

春岡「自社パロディがベースにあるんだけど、『そんなに友だちって本当に必要か?』みたいなテーマになってるのは面白かったよな。あと、弓矢が得意なメリダだけちょっと浮いてて、ディズニーヒロインたちから『あの子だけ違うスタジオなのよ』って言われたり」

斉藤「ピクサーやから(笑)」

田辺「そうそう(笑)。だから、ゲームとかオンラインって設定はあんまりだったんですけど、やっぱり画の質が凄まじいですね」

春岡「トロンでゲームに入るところとか。トロンなんて、あの当時最先端だったのに、ここまでこんな軽くやられるのかっていう」

田辺「ちょっともう観てても、シュガーラッシュにしても、アニメっていうイメージないですよね、完全に」

斉藤「そういう仮想現実としてのゲームものなら、上半期の『レディ・プレイヤー1』が一歩上に行ってる感じがするんだけどね」

田辺「あと、試写で見逃しちゃったんで映画館に行くつもりなんですけど、(サウジアラビア初の女性監督である)ハイファ・アル=マンスール監督のは絶対観ないといけない作品ですよね」

斉藤「そう。ゴシック小説の金字塔『フランケンシュタイン』の作者メアリー・シェリーの伝記映画に、よくぞあの監督を起用した!というプロデューサーを褒めるべきかも」

田辺「素晴らしい。たしか『少女は自転車に乗って』のとき、監督は殺害予告されてますよね」

斉藤「そんなにまでしてあの映画を作った彼女の思想が、ぜんぜん文化的土壌の違う『メアリーの総て』にダイレクトに表れてるのよ。僕、メアリー・シェリーと「フランケンシュタイン」のマニアで、いろんな関連本も読んでるんやけど(笑)、よくぞこの重要だけど些末なエピソードをすくい上げてくれたな、とかいちいち感動したね。ただ前半は彼女の生涯をきっちり伝記的に描いて、それって事実だけど真面目すぎてちょい退屈、って思ってたのよ。それがあの夜(ディオダディ荘の怪奇談義)をきっかけに、すべてが回収されて『フランケンシュタイン』の創造に繋がるという怒涛の流れがたまらん」

※ディオダディ荘の怪奇談義=1816年、スイス・レマン湖畔に詩人バイロン卿が借りていた別荘にメアリー・シェリーら5人の男女が集まり、それぞれが創作した怪奇譚を披露しあった出来事。『フランケンシュタイン』『吸血鬼』は、このときの着想を元に生まれたという。

春岡「ディオダディ荘の怪奇談義はやっぱり題材として素晴らしい。何回映画になってもいいよ。『メアリーの総て』もやっぱりそこが面白いもん」

斉藤「ケン・ラッセル監督の『ゴシック』(1986年)もそれを描いてたけどさ、『メアリーの総て』は事実に基づいていながら、フェミニズム的な観点での「フランケンシュタイン」の読み方を映像で説き証して、しっかり納得させてしまうのが素晴らしい。監督の意志が強く出てるし、プロデューサーがアフガニスタン人の彼女を連れてきた意味がちゃんと出てるのが最大の驚き。あと、良かったのはかな」

「婆さんになってからの方が全然魅力的」(春岡)

春岡「『アリー/スター誕生』はビックリした。ブラッドリー・クーパー監督、やりよるなって」

斉藤「役者としては、1977年版(全米は前年公開、以下同)のクリス・クリストファーソンの真似してるなって感じがどうしてもするんだけど(笑)、演出がめっちゃ上手い」

春岡「あいつスゴいぞ。あれだけ男前で、演出の腕もクリント・イーストウッドのレベルだぜ」

斉藤「イーストウッドの弟子だからね」

田辺「イーストウッドが今回の企画を回してくれたんですよね。たしかビヨンセが妊娠したことで延期になって、プロジェクトが流れて」

斉藤「ガガちゃんは絶対女優としても上手いとステージング観てて思ってたけど、やっぱり上手かった。圧倒的」

春岡「それがあったにしても、あのブラッドリー・クーパーの演出は上手い」

斉藤「公開前のCMで、マツコ・デラックスが『ベタ砲』とかって言ってるけど、お話自体はほんまにベタなんよね。でもあのベタさがないと、ワーナーお家芸の『スター誕生』って演目じゃなくなるから(笑)。でも僕が震えたのは、ガガちゃんの鼻とか指とかに、なにかというとフェティッシュにクローズアップしまくる変態的なクーパーの演出ね。今年いちばんエロティックな画だったと思う」

春岡「30年に1回リメイクされてきて、それがまた毎回ちゃんとした映画で、その時代に合ってるっていうのがスゴいじゃん。1937年版がオリジナルだけど、話もまったく変わってない。それでずーっとやってて、毎回その時代に観た人間がいいなぁって言ってんだからすごいよ。あと、アニエス・ヴァルダとJRが監督・脚本・出演したもいいよなぁ。アニエス・ヴァルダと、フランス人アーティスト・JRとのコラボレーションを追いかけたドキュメンタリー映画だけど、ベスト3に入れたいところではある」

斉藤「最高です。やっぱりアニエス・ヴァルダって、自分でビデオ・カメラを手にしたときから変わったよね。『幸福』(1966年)の時代より、全然いいもん」

春岡「やっぱり、ヌーヴェルヴァーグの人たちは、自由にカメラを回すとスゴいよ。婆さんになってからの方が全然魅力的(御年90歳)」

斉藤「(105歳まで撮った映画監督)マノエル・ド・オリヴェイラ以上でしょう(笑)。また、ビサージュ・ヴィラージュ(Visages Villages)って原題が洒落てる。邦題の『顔たち、ところどころ』も悪くないけど、やっぱ音的にね」

春岡「6月に上半期の鼎談をやったときは、ほとんどアカデミー賞関連の作品ばっかりで、まあ、この時期はしょうがないかぁとか言ったんだけど、下半期になっても、結局上半期で1位にした『ファントム・スレッド』を抜けるのがなかったよね」

斉藤「『ヘレディタリー』だけだね。あ、『きみへの距離、1万キロ』は? あれ、下半期じゃなかった?」

田辺「あれ、面白かったですけど、4月公開なんで上半期ですね」

春岡「じゃあ、外国語映画トップ3は、『ヘレディタリー/継承』『メアリーの総て』『顔たち、ところどころ』ってところか。バランス的にも面白いんじゃない」

田辺「確かにほかのメディアでは、この3本は挙がらないかもですね」

斉藤「そやね。じゃあ、飲みにいこっか(笑)」

(Lmaga.jp)

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